- 2026年10月29日
仙腸関節障害を疑う 仙腸関節の解剖と仙腸関節障害の診断テストについて
いとうペインクリニック院長の伊藤です。今回は、仙腸関節の解剖と仙腸関節障害を疑う際に行う診断テストについて話をします。
仙腸関節は背骨の下部組織である仙骨と仙骨の左右にある腸骨の間にある関節を指します。仙腸関節障害は、骨盤を構成する仙腸関節が何らかの原因で障害され、疼痛を引き起こす状態をいいます。

写真 MB Orthop. 38(11):1—12,2025下肢の関節治療に役立つ解剖―新知見を交えて―仙腸関節 ①臨床に生かす仙腸関節の機能解剖 黒澤大輔 村上栄一 佐中孝二 より抜粋一部変更
仙腸関節は、足と胴体をつないで、衝撃から体を守る役割を果たしています。通常、仙腸関節は靱帯で、しっかりと固定されており、大きく関節が動くことはありませんが、何らかの理由で緩んだり、逆に固まってしまったりすると仙腸関節障害による疼痛やしびれを引き起こすと考えられています。仙腸関節は腰椎と股関節の間に位置するため,腰椎疾患や股関節疾患が疼痛やしびれの原因である場合もあり、病態が複雑にみえることがあり診断が難しい疾患です。
疼痛やしびれ症状の発生する部位について

仙腸関節障害は年代や性別を問わず発生します。上述2つの文献において、疼痛部位に若干の違いがありますが、典型的な仙腸関節障害の症状としては、腸骨の背部の突起部分である上後腸骨棘(posterior superior iliac spine:PSIS)を中心とした腰殿部痛、時に鼡径部痛や下肢痛やしびれを伴うとされています。重症例では、歩行では立脚側で荷重時に痛みが増悪し、椅子座位でも疼痛が誘発されるため座位保持が困難となる場合もあります。
解剖
仙腸関節の構造
仙腸関節は仙骨と腸骨の関節面で構成される滑膜関節です。

写真・図 MB Orthop. 38(11):1—12,2025下肢の関節治療に役立つ解剖―新知見を交えて―仙腸関節 ①臨床に生かす仙腸関節の機能解剖 黒澤大輔 村上栄一 佐中孝二 より抜粋一部変更
仙腸間の滑膜関節に加え仙腸関節周囲の靱帯領域を合わせて仙腸関節と定義されています。

仙腸関節の動きは、周りの靭帯(後仙腸靱帯・長後仙腸靱帯・仙結節靱帯・仙棘靱帯・前仙腸靱帯)によって動きが制限されており、平行移動1 mm 以下、回旋1°以下と可動性はほとんどありません。仙腸関節に関連した周囲靭帯と、仙腸関節障害に起因して発生する圧痛ポイントとして、PSIS部分を筆頭に、LPSLやSTL点に圧痛が認められることが多いとされています(上写真)。
特に仙骨の前屈運動時に仙結節靱帯がこれを制限し、後屈時に長後仙腸靱帯がこれを制限しています。

図 MB Orthop. 38(11):1—12,2025下肢の関節治療に役立つ解剖―新知見を交えて―仙腸関節 ①臨床に生かす仙腸関節の機能解剖 黒澤大輔 村上栄一 佐中孝二 より抜粋

二足歩行において立脚初期~中期にかけては仙腸関節面の最前部が接触し、立脚後期では最後部が接触します。すなわち,歩行周期によって力のかかる関節面が変化しています。
またに足歩行の際は、立脚位では仙骨は前屈(腸骨は後方回旋)し、反対の遊脚側の仙骨は後屈(腸骨は前方回旋)しています。
仙腸関節の動きは、平行移動1 mm 以下、回旋1°以下と可動性はほとんどありませんが、仙腸関節は脊柱と股関節の間で荷重伝達を担いつつ、わずかな関節の可動域を有すことで体幹と下肢からの衝撃を受け流して、周囲靱帯がそれを受け止めることで衝撃吸収装置として機能しています。
女性のほうが、男性に比べ仙腸関節の可動域は大きく周囲靱帯負荷も大きいとされています。骨盤輪の構成体は、仙骨と寛骨、両側の仙腸関節構造と恥骨結合があります。周産期および妊娠可能年代の女性の腰殿部痛の病態として骨盤輪不安定症があると考えられています。女性の仙腸関節障害例においては、恥骨結合のずれをチェックすることも重要です。また、腹部体幹筋、なかでも腹横筋の働きが低下すると仙腸関節面を圧着させる力が不足し、仙腸関節痛の原因となることも考えられます。
仙腸関節の神経支配
仙腸関節へは腰椎~仙骨よりの神経であるL4~S3 からの神経の枝が到達して、痛みを伝えるとされています。神経終末は主に後方の靱帯領域に多く認められるとされています。L5,S1,S2 からの後枝外側枝は関節腔領域のすぐ背側の骨間靱帯内へ分布しています。また、S2~4 の後枝は神経叢を形成し仙結節靱帯方面に分布しています。

S1~3 の後枝外側枝部分が、支配神経のメイン部分であると思いますが、すべてブロックした後でも,後仙腸靱帯・骨間靱帯への刺激による痛みが残存する例の報告もあり前方の関節包に分布するL5 神経根の腹側枝や底面に向かうS2 神経が挙げられています。
仙腸関節周囲靱帯の組織像の観察では、靱帯付着部近傍の脂肪組織のなかに神経枝が確認されており、仙腸関節障害が長期に及びそれら周囲靱帯付着部に不均等な伸張ストレスがかかり続けた結果として、付着部症としての病態が生じると考えられています。特に靱帯の仙骨部起始および坐骨結節停止部に生じやすいと考えられます。
仙腸関節障害の診断
現時点では,仙腸関節の不適合はなかなか画像診断で捉えることができませんが、徒手療法による臨床経験からその存在が示唆されてきました。
①One finger テスト
典型例の診断方法は、最も疼痛が強い部位を一本指で患者に示してもらうOne finger テストがあります。お尻の上外側にある上後腸骨棘(PSIS)の周辺、特に少し内側・下側を指す場合、仙腸関節障害の可能性を考えます。

写真 MB Orthop. 38(11):1—12,2025下肢の関節治療に役立つ解剖―新知見を交えて―仙腸関節 ①臨床に生かす仙腸関節の機能解剖 黒澤大輔 村上栄一 佐中孝二 より抜粋一部加筆
②仙腸関節部に圧迫を加えて疼痛が誘発される場合、仙腸関節障害を考慮します。

写真 MB Orthop. 38(11):1—12,2025下肢の関節治療に役立つ解剖―新知見を交えて―仙腸関節 ①臨床に生かす仙腸関節の機能解剖 黒澤大輔 村上栄一 佐中孝二 より抜粋
③仙腸関節ブロックで痛みが軽減(ブロック:局所麻酔薬を用いた注射)
1)超音波エコーを用いた仙腸関節後方靭帯ブロック

写真 MB Orthop.36(9):33—43,2023.仙腸関節障害と腰痛 黒澤大輔ほかより抜粋
後方靱帯領域に針を刺入する仙腸関節後方靱帯ブロック時によく再現痛が得られるとされています。
2)透視画像を用いた仙腸関節関節腔内ブロック

約80%が関節後方靭帯ブロックで痛みが軽減し、関節内注射で約20%が痛みが軽減するという報告があります。
治療
当院では、超音波エコーまたは、透視画像を用いた仙腸関節ブロックを行っています。
鎮痛の為、内服薬を処方し、仙腸関節後方靱帯内と関節内のブロックを1~2 週間ごとに複数回実施します。

指導
仙腸関節部を安定させるため、骨盤ベルトの装着や、腹部体幹筋トレーニングを自主的に実施してもらい、仙腸関節の安定性を高めるよう指導します。

写真 MB Orthop. 38(11):1—12,2025下肢の関節治療に役立つ解剖―新知見を交えて―仙腸関節 ①臨床に生かす仙腸関節の機能解剖 黒澤大輔 村上栄一 佐中孝二 より抜粋
運動:腹横筋の収縮が仙腸関節面の圧着には効率がよいとされています。
仙腸関節コルセットによる圧着

臨床スポーツ医学:Vol.40,No.9(2023-9)922-925 仙腸関節コルセット 森戸剛史,金岡恒治より抜粋
日常生活・就労困難な場合には最終的に仙腸関節固定術なども考慮されます。
写真 左仙腸関節固定術

写真 Journal of Spine Research 17(6): 837-844, 2026.女性の骨盤輪不安定症に起因した仙腸関節障害への対応
黒澤大輔, 遠藤由紀子 より抜粋
参考文献
MB Orthop. 38(11):1—12,2025下肢の関節治療に役立つ解剖―新知見を交えて―仙腸関節 ①臨床に生かす仙腸関節の機能解剖 黒澤大輔 村上栄一 佐中孝二

仙腸関節症は、診断の難しい腰痛症の1つであると考えています。仙腸関節部分の痛みは脊椎炎などのような疾患が原因の場合もありますので仙腸関節ブロックでその場で痛みが消失する場合も、慎重に経過を見ていく必要があると考えています。
腰痛の原因はいろいろありますが、当クリニックでは、少しでも疼痛が緩和し生活の質が向上することを目標に治療を行っています。腰痛でお悩みの方の来院をお待ちしております。