- 2026年7月5日
3秒ルール・・・物を落としたら、何らかの菌はついています。
いとうペインクリニック院長の伊藤です。皆さんは、食べ物をポロっと地べたに落とした時、3秒ルールを適応しますか?ちょっとくらい大丈夫と気にしない人も多いと思います。しかし、ペインクリニック内科でブロック注射を行う際は、3秒ルールは通用しません。
今回は、これによく似た5秒ルールについて実験したアメリカの論文がありましたので紹介します。
Journal of Applied Microbiology ISSN 1364-5072 Residence time and food contact time effects on transfer of Salmonella Typhimurium from tile, wood and carpet: testing the five-second rule P. Dawson, I. Han, M. Cox, C. Black and L. Simmons
カーペット、タイル、木材にサルモネラ・ティフィムリウム(以下、サルモネラ)をあらかじめ塗布させたものに対し、パンとソーセージを5秒、30秒、60秒接触させて、生菌(生きたサルモネラ)の付着率(移行率)を調べています。

サルモネラ・ティフィムリウムとは:感染型食中毒を起こす非チフス型サルモネラの1つで、主に経口感染にて食中毒や胃腸炎を起こす細菌です。発症菌数は 10¹~10⁴(10~10000) と算出されており、潜伏期間は12~72時間で、症状は発熱、頭痛、腹痛、下痢、嘔吐などで、下痢は水様、時に粘膜や血液が混じます。健康な成人は症状が胃腸炎でとどまりますが、小児や高齢者では時に重篤になり、敗血症により死亡することがあります。ペット、爬虫類などの腸管に広く分布し、汚染された食品(特に卵・鶏肉・食肉)や動物との接触を介して人に感染します。サルモネラは熱に弱く、食肉・卵の調理課程において、本菌を防除するためには加熱が最適な方法であり、食品の中心部まで 70℃、1分以上加熱すれば本菌を死滅することができます。
参考資料:https://www.fsc.go.jp/sonota/hazard/H21_15.pdf
平成21年度食品安全確保総合調査 「食品により媒介される感染症等に関する文献調査報告書」(社団法人 畜産技術協会作成)15.サルモネラ・ティフィムリウム
実験
10×10 cm資材(タイル、木材、カーペット)を滅菌したものに、一定濃度に培養したサルモネラを滅菌ガラス棒(濃度は、107~8 CFU /ml)で塗布し、5分間の乾燥を行った後、21℃、湿度50%に保った場所に保管し実験に使用しています。設定した時間ごとに、資材に対して、10×10 cmの正方形に切断したソーセージとパンを一定時間(5秒、30秒、60秒)、圧をかけないように接地させ、菌の移行率について調べています。
用語の説明
CFUについて:コロニー フォーミング ユニットの略で、培地で培養して発生したコロニー(菌の集合体)の数を表しています。
上述の材料(カーペット・タイル・木材)に塗布されたサルモネラ107~8 CFU /mlとは、1mlに107~8 個のコロニーができる濃度に調整された菌のことを表しています。
生菌数の単位について、 Log10CFUcm-2とはcm2あたりの生菌数を対数で表した値です。縦軸の値が6~7の場合、サルモネラの106~107個が、1cm2中に生きた菌として存在したということになります。Log10CFUcm-2の値が1違うと、10倍の数の違いがあることになります。
菌の移行率について、材料から食材にどれぐらいの割合で菌が移行したのかを表しています。移行率(単位:%)={CFU(ソーセージまたはパン)/ CFU(ソーセージまたはパン)+CFU(タイルまたは木材またはカーペット)}×100で表されています。
結果
タイル表面に塗布されたサルモネラの生存している期間について

グラフ1:0.1%ペプトン水(♦)、1%トリプトソイブロス(■)、および10%トリプトソイブロス(▲)の3種類の培養液(培養液は、♦<■<▲の順に高栄養)で培養されたサルモネラを、タイルに塗布し、21℃、湿度50%の条件下での経過時間と生菌数の関係についてまとめたものです。栄養が高い培地で育ったサルモネラの順に生菌数が高い結果となっています。
タイル上に塗布されたサルモネラは、21℃、湿度50%の条件下、28日後にも生存していることが示されています。また、28日後、最も低かった菌数でさえ感染を引き起こしうる濃度が保たれていました。上のグラフからは読み取りにくいですが、サルモネラの死滅速度は、0~4時間までの死滅速度は急激で、4時間~28日まで間では緩やかに死滅していくという二相性を示したと記載されています。
接触時間による違いが、食品へのサルモネラ(生菌)の移行に影響するかについて
資材と食品との接触時間が5秒、30秒、60秒であった場合、すべての条件において、食品に感染を引き起こしうるだけの細菌が付着(移行)している結果となりました。
(グラフ2・3・4・5)
グラフ2 グラフ3

グラフ2と3は、サルモネラをタイルに塗布後、0、2、4、8、24時間経過した時点でソーセージとパンをそれぞれ5秒(♦)、30秒( ■)、60秒間(▲)接触させ、食品に移行したサルモネラの生菌数を調べたものです。
グラフ4 グラフ5

グラフ4と5は、サルモネラを木材とカーペットに塗布後、0、2、4、8、24時間経過した時点でソーセージを5秒(♦)、30秒( ■)、60秒間(▲)接触させ、食品に移行したサルモネラの生菌数を調べたものです。
グラフ2~5より、5秒(♦)という短時間でさえ、しっかりサルモネラが食品へ移行しているのがわかります。また、この結果から資材から食品への移行は、食品の違いより、資材の表面の状態が大きくかかわっていると考察しています。
食物への移行率について
カーペットは、タイルや木材に付着したサルモネラの食品への移行率5.47~68.55%と比較して、非常に低い移行率(0.4%未満)でした。(表1)
表1
木材、タイル、カーペットを湿度50%、室温21℃で管理した空間で、0時間から24時放置し、0、2、4、8、24時間毎にソーセージまたはパンを接触させた際の移行率と生菌数を表にまとめたものです。

カーペットにおける8時間までのサルモネラの生残率は木材やタイルより高く(グラフ6)、移行率は低かったものの4・8時間経過時点ではタイルや木材より多くのサルモネラが検出される結果となっています。
グラフ6

木材とタイルにおいては、4時間後に接触させた場合、カーペットの場合は、8時間後で移行率は最も低下していましたが、これらの移行率の低下理由についての記載はありませんでした。タイルでの実験にて菌の死滅速度は二相性で、0~4時間で特に死滅速度が急激(グラフ1)とのことでしたので、4時間経過時にタイルと木材(グラフ6より木材の場合、8時間経過の時点まで表面の菌の死滅速度は、タイルと同様であった)表面より食品に接着した菌のうち、コロニー形成できずに死んでいく菌の割合が高かったことが移行率の低さに影響しているのではないかと推察しました。カーペットの場合は、そもそも移行率の低いことによる誤差の可能性がありますが、8時間経過時の移行率が特に低かった理由として、グラフ6より死滅速度が8時間後より急速に進んでいることから、木材とタイル同様の影響を考えました。
結論
5秒置いても、論文では、菌はしっかり食物に移行していることが示されています。
極めて短い接触時間であっても、大量の細菌が移行する可能性があるため、食品への汚染を低減するためには、食品接触面の適切かつ徹底した衛生管理が必要であるとしています。
まとめ

ブロック注射を行う際は、3秒ルールは通用しません。
ショッピングモールや路上で、ポロっと落とした床の上や道路は一見きれいに見えても、大腸菌をはじめいろいろな菌やごみが存在しています。気にしなければ拾って食べても問題ないかもしれませんが、ブロック注射を行う際は、3秒ルールは通用しません。ブロック注射の合併症で怖いものの1つとして感染症があります。
当院では、感染を起こさないよう硬膜外ブロックや神経根ブロックなど体内深部へのブロック注射は、刺入部位を外科用消毒液で消毒し、滅菌されたブロックセットで、滅菌手袋使用の下で実施しています。関節注射などの場合も、外科用消毒液を使用しています。
椎間板へのブロック注射や経皮的椎間板摘出術(Disk‐FXなど)、腰椎椎間板内酵素注入療法(ヘルニコア)は、現時点では、当院では実施していません。椎間板には血流がなく、いったん外部より菌が入り込むと、化膿性脊椎炎のような難治性の感染症の危険がある為です。また、硬膜外への鎮痛薬持続投与の為の硬膜外チューブ挿入やラッツカテーテル、SCS(脊髄刺激装置)のような異物の留置も当院では実施していません。留置中、外部より刺入部位に菌が入り込む危険が常にある為です。これらの施術を実施する場合は、事前の抗生剤の投与の必要がありますし、刺入部の管理にも気をつけなければなりません。何らかのトラブルが発生した場合を想定し、すぐに対応できる入院施設で行うべき施術であると考えています。