- 2026年6月25日
頸部レントゲン側面像について・・・レントゲンで何をチェックしているのか
いとうペインクリニックの院長の伊藤です。頸部のレントゲンを撮影するとき、最も重要視している写真は、側面像になります。頚部の側面像は、第1頸椎(以下、C1)から第7頸椎(以下、C7)まで広範囲の骨陰影と軟部陰影が投影されることで、診断において重要度はかなり高い画像となります。今回は、頚部レントゲン側面像で注意している点についてご説明したいと思います。
頸椎のアライメント(alignment)について
アライメントとは頸椎の並びと位置関係についての状態に対する表現です。下顎を少し上にあげた状態での撮影を行っています。これは下顎が上位頸椎と重なるのを避けるために実施しています。
まずは、頸部のアライメントについて、頸椎はC1~C7の7つありますが、第2頸椎(以下、C2)後縁下端と第7頸椎(C7)頸椎後縁下端を結ぶ線を基準にして頸椎の前弯、後弯についてみています。(下図)

日本臨床スポーツ医学会誌:Vol.22 No.1,2014.75-79 大学2部アメリカンフットボール チーム新入生の頚椎X線所見~9年間の調査報告~Radiographic analysis of collegiate division 2 American football players from 2003 to 2011
真木伸一,若林敏行 より抜粋一部変更
C2後縁とC7後縁を結ぶ直線(下図赤線)に対し、第3頸椎(以下、C3)から第6頸椎(以下、C6)の椎体後下縁を結ぶ点線(下図の青点線)が赤線の前方に認められるものを、前弯、後方に認められるものを後弯として表現しています。ストレートネックとしてよく表現される頸椎のアライメントは、下図では、直線型になります。その他、逆S字型などの変形も認められます。

画像 INNERVISION(29・6)2014 64‐68.1 脊椎アライメントと頸椎側面撮影 安藤 英次 より抜粋
正常な頸椎の弯曲は、本来、緩やかに前方へ凸状に前弯しています。
首の形状が疼痛に関係しているかどうかは明らかではありませんが、以前ブログでお話ししたように、線維筋痛症患者さんでは、直線型が多かったという報告がありました。頸椎のアライメントと頸部痛には関連はなさそうであるという報告もありますが、高校生でのアメフトやラグビー選手を対象にした、頸部のレントゲン変化において、前弯のアライメントに対し、後弯群で頸部痛が多かったとの報告もあります。また、首下がり症候群などでは、後弯変形が目立っています(下画像)。
首下がり症候群の頸椎レントゲン側面像について

画像 J. Spine Res. 14:767‐772. 2023 Dropped Head Syndrome in Patients with Parkinson’s Disease Kenji Endo et. All より抜粋
上位頸椎(C1・C2)の評価
C1とC2は中位~下位頸椎(C3~C7)とは異なった形態をしており、評価する部分が異なってきます。まずは、頸椎の亜脱臼についての評価を行います。

画像 INNERVISION(29・7)2014 98‐101.2 脊椎アライメントと頸椎側面撮影 安藤 英次より抜粋 一部変更
軸椎(C2)の前方亜脱臼の評価
環椎歯突起間距離(ADI)が、成人で3mm以下、小児で5mm以下が正常になります。この距離が開大している場合、頸椎の亜脱臼を疑います。亜脱臼は、先天的な亜脱臼とリウマチなどの後天的な亜脱臼があります。脱臼は、脊髄の圧迫により、脊髄麻痺症状を引き起こす可能性があります。
C1の後弓とC3との脊柱管の後壁線のラインのずれが大きい場合も脱臼を疑う所見となります。
軸椎(C2)の垂直方向の亜脱臼の評価
垂直亜脱臼(vertical subluxation:VS)は、C2歯突起が頭蓋内に陥入(垂直方向)することで頭蓋底陥入症(basilar impression)の原因となります。垂直亜脱臼を計測する計測法は、基準線(McGregor線)からC2歯突起が突出する距離(A)を計測しますが、McGregor線(硬口蓋後縁の上表面から頭蓋骨カーブの尾側を結んだ線)より3mm以上歯突起が飛び出ている場合、軸椎垂直亜脱臼の可能性が疑われます。

図 MB Orthopaedics 24(5): 119-128, 2011.リウマチと炎症性疾患(SAPHO症候群も含めて) ―外科的治療(特に脊椎)―山田圭 より抜粋一部変更
下の画像では、レントゲンでは、歯突起の頭蓋内への陥入ははっきりしませんが、CTにて垂直亜脱臼が明らかとなっています。

画像 頸椎レントゲン側面像 頸椎CT側面像
画像 MB Orthopaedics 23(6): 53-61, 2010. 関節リウマチによる頚椎病変の画像診断
加藤義治 より抜粋一部変更
頸椎が亜脱臼している場合、過度の前屈は頸椎脱臼の危険があり注意しないといけません。一例ですが、ダウン症の患者さんの中には、環軸椎(C1とC2)関節の不安定さがある方もおられます。以前、手術の際は、あらかじめ頸椎の亜脱臼についての質問と、患者さんと家族、術者に対して、頸部の前後屈で問題ないかの確認を行っていました。また、可能ならば、レントゲン側面像でのチェックも行っていました。脱臼の危険がある場合は、前屈位にできるだけならないように注意して麻酔管理を行っていました。
(一方、頚椎症性頚髄症の手術の場合は、必要以上の後屈は、脊髄障害を引き起こすため、後屈しすぎないよう注意して麻酔管理を行っていました。)
中~下位頸椎(C3~C7)の評価について
(C1・C2を上位椎体、C3~C7を中~下位頸椎とします。)
脊柱管前後径(SAC)について
下図では脊柱管前後径を測定しているが、右の画像では、8mmと脊柱管前後径(SAC)が狭くなっています。中位頸椎の2つのタイプについてSACの実測をすると左の画像では17mmとSACは、成人正常値15mm以上に対し実測値が17mmと広く,正常なSACです。一方、右の画像では、SACが8mmと正常値より明らかに狭く脊柱管狭窄症(脊髄の圧迫)が疑われます。12mm以下の場合、発育性脊柱管狭窄症を疑いますが、レントゲン画像にて評価する場合は、側面像が正確に撮影されている必要があります。
画像が斜めにずれていると正確に測れません、正確に測る為にはCT検査が必要です。脊髄や神経の圧迫を診る為にはMRI検査が必要です。

画像 INNERVISION(29・7)2014 98‐101.2 脊椎アライメントと頸椎側面撮影 安藤 英次より抜粋 一部変更
中~下位頸椎(C3~C7)のレントゲン側面像のチェック項目について
全体のアライメントをサーっと見てから、椎間腔の狭小化や脊柱管狭窄の有無と椎体の骨変性としての硬化像(白い部分)や骨棘像(骨のとがった部分)を診ます。前方や後方にずれ(アライメントが不整)がある場合は、前後屈の側面像を追加し、すべり症の程度や後方開大などの不安定性についてチェックします。
前方すべり・後方すべり・後方開大・狭小化・骨棘は、頸椎の不安定さを引き起こし、頚椎症性脊髄症や頸椎症性神経根の原因となりえます。

画像 INNERVISION(29・8)2014 98‐101 3 脊椎アライメントと頸椎側面撮影 安藤 英次 より抜粋 一部変更
頸椎の脊髄や神経を圧迫する要因について

画像 INNERVISION(29・8)2014 98‐1013 脊椎アライメントと頸椎側面撮影 安藤英次 より抜粋 一部変更
痛みやしびれなどの症状が類似している頸椎症や後縦靭帯骨化症、頸椎椎間板ヘルニア、ですが、脊髄や神経を圧迫する要因はそれぞれ骨棘、靭帯骨化、ヘルニアと異なっています。
頸椎症の頸部レントゲン側面像について

画像 INNERVISION(29・8)2014 98‐101 3 脊椎アライメントと頸椎側面撮影 安藤 英次 より抜粋一部変更
側面像において、アライメントはおおよそ問題なさそうですが、C4からC7頸椎の椎間板腔の狭小化と椎体に骨棘(→)を認めます。パッと見た感じは、すべり症はなさそうです。C5 の椎体の後壁に骨棘が脊柱管の方向に突き出しており、この部分での神経の圧迫が考えられます。椎間板の変性は、椎体に負荷がかかり、骨棘や骨硬化像などの変形をもたらします。
頸椎後縦靭帯骨化の頸部レントゲン側面像について

画像 INNERVISION(29・8)2014 98‐101 3 脊椎アライメントと頸椎側面撮影 安藤 英次 より抜粋一部変更
側面像において、アライメントは問題なさそうです。C5の骨棘が椎体前壁に認められていますが後壁にはなさそうです。すべり症や後方開大などの不安定性もなさそうです。この画像ではC2~C6に続く連続性の後縦靭帯の骨化が認められ、これにより脊柱管は狭窄しています。脊髄への狭窄のみならず後縦靭帯の骨化は、過屈曲伸展動作や転倒などの衝撃によって骨化部分が後方に突出した場合には、脊髄障害の危険があります。
頸椎椎間板ヘルニア
若い人でも発生しやすい椎間板ヘルニアは、レントゲンでは診断が困難です。頸椎椎間板ヘルニアは、CTやMRIによる検査が必須となります。
軟部陰影について
軟部陰影は、C2-4レベルまではほぼ同じ厚さですが、C5以下では急に太くなります。これは食道が現れるためです(C1・C2を上位椎体、C3~5を中位椎体、C6・C7を下位椎体とします)。
中位椎体前軟部組織:後咽頭腔距離
下図ではC4椎体前面と軟部組織後壁陰影の距離を表わしています。正常では、成人、小児とも≦7mmとされています。石灰化性頸長筋腱炎や咽頭後壁膿瘍で、この幅が拡大します。縦隔気腫で、椎体前の軟部組織にエアーが見られることがあります。
下位椎体前軟部組織:retrotracheal space:RT
下位椎体前面と気管の後壁の距離は、正常では、成人≦22mmで小児では14mmとなります。軟部陰影であるRTにおいては、頸部浮腫による陰影腫大や甲状腺などの異常石灰化、縦隔気腫で、椎体前の軟部組織にエアーの有無を観察します。下部頸椎は、肩の軟部陰影がC7からT1と重なり描出が容易でないこともあります。

https://www.hhk.jp/gakujyutsu-kenkyu/ika/101205-070000.php兵庫県保険医協会ホームページ プライマリケアのための関節の見方 頸椎の診察(下)臨床医学講座2010.12.05 講演 仲田 和正 より抜粋一部変更
参考文献・資料
・INNERVISION(29・6)2014 64‐68.1 脊椎アライメントと頸椎側面撮影 安藤英次
・INNERVISION(29・7)2014 98‐101.2 脊椎アライメントと頸椎側面撮影 安藤英次
・INNERVISION(29・8)2014 98‐101.3 脊椎アライメントと頸椎側面撮影 安藤英次
・日本臨床スポーツ医学会誌:Vol.22 No.1,2014.75-79 大学2部アメリカンフットボール チーム新入生の頚椎X線所見~9年間の調査報告~Radiographic analysis of collegiate division 2 American football players from 2003 to 2011
真木伸一,若林敏行
・日本臨床スポーツ医学会誌:Voll.9.No.1,2001.40-45 Radiological Changes in the Cervical Spine in high School Rugby and American Football Players Tsukimura, Y. et. All
・https://www.hhk.jp/gakujyutsu-kenkyu/ika/101205-070000.php兵庫県保険医協会ホームページ プライマリケアのための関節の見方 頸椎の診察(下)臨床医学講座2010.12.05 講演 仲田 和正
・Journal of Clinical Rheumatology Volume 29, Number 2, March 2023 The Vast Majority of Patients With Fibromyalgia Have a Straight Neck Observed on a Lateral View Radiograph of the Cervical Spine An Aid in the Diagnosis of Fibromyalgia and a Possible Clue to the Etiology Robert S. Katz, MD et all.
・J. Spine Res. 14:767‐772. 2023 Dropped Head Syndrome in Patients with Parkinson’s Disease Kenji Endo et. all
・J Bone Joint Surg Am. 2016 Jul 20;98(14):1206-14. doi: 10.2106/JBJS.15.01231.
A Novel Radiographic Indicator of Developmental Cervical Stenosis Phillip H Horne , Lukas P Lampe , Joseph T Nguyen , Richard J Herzog , Todd J Albert

写真 当院でのレントゲン装置です。撮影された画像はデジタル画像として転送され、院内画像データとして保管(PACS)されるようになっています。
補足:PACS(Picture Archiving and Communication System)とは、医療用画像管理システムのことで、院内でのレントゲンや外部で撮影されたCT、MRIなどのデジタルデータ(画像)を保管・管理するものです。
まとめ

レントゲンやCT、MRIの画像だけで診断がされるわけではありません。あくまで、臨床症状が重要です。60歳以上になると多かれ少なかれ、頸椎のレントゲンにて異常所見が認められます。レントゲン所見でも画像の異常所見として骨アライメント異常や骨の変性所見があっても,無症候性であることも多いです。画像がすべてではありません。