- 2026年7月21日
椎骨(背骨)の数について・・・Hox遺伝子 哺乳類と鳥類

人の椎骨(背骨)は、頸椎7つ、胸椎12つ、腰椎5つ、仙骨1つ(5つの椎骨が癒合)、尾骨1つ(4つの椎骨が癒合)で構成されていますが、動物の骨の数は、種によって違いがあります。今回は、椎骨(背骨)の数についての話をしたいと思います。
頚椎の数について
身近な家畜の骨は下記の通りです。家畜の骨の数を見て、哺乳類の頚椎(首の骨)は、すべて7つです。一方、ニワトリは、頸椎の数が多く14個もあります(文献1)。

図 THE BONE Vol.20 No.3 2006 5 95‐109(355‐369)
ホネのかたち 第3回 哺乳類の骨格一脊柱一 Skeleton of mammals’ vertebral column一 佐々木基樹 より抜粋
ホフマンナマケモノは6つ、ミツユビナマケモノは9つ、マナティーは6つなどの極めて少ない例外はありますが、人に限らず哺乳類の頸椎の数は、基本7つです。マウス、クジラ、キリンなども7つです。爬虫類であるワニや亀や蛇は8つ、両生類のカエルや魚類は1つが一般的とされています。鳥類には、頸椎の数が種によってかなりばらつき(頸椎数が10~25個くらい)があります。
これら体軸を構成する椎骨の数は、Hox遺伝子によって制御されています。
Hox遺伝子
Hox遺伝子は、発生期に前後軸(頭と尾の向き)に沿ってからだの構造や手足の形成を指令する遺伝子です。

図 https://www.nig.ac.jp/nig/images/research_highlights/PR20210607.pdf
埼玉大学 国立遺伝学研究所 動物の発生を司るHoxクラスターは 脊椎動物の進化過程で機能が多様化した プレ酢リリース より抜粋
上図に示すように、哺乳類を含む脊椎動物には、Hox遺伝子は、異なる染色体上の4つのクラスター(HoxA、HoxB、HoxC、HoxD:遺伝子群)上に存在しています(例外:ゼブラフィッシュは7つのクラスター)。一つのクラスターには、遺伝子情報(Hox遺伝子)が最大13個並んで形成されています。マウスの場合は、4つのクラスター上に合計39個のHox遺伝子が保持されています(参考資料2)。ヒトのHox遺伝子も39個同定されています。

図 https://www.brh.co.jp/publication/journal/103/rp/perspective/
PERSPECTIVE 生きものを形づくるゲノム | JT生命誌研究館 より抜粋一部変更
上図は大まかなイメージ図ですが、Hox遺伝子は染色体上に13個並び一つのクラスターを形成しています(合計4つのクラスター)。個体発生で頭から尾へ体幹部の形づくりが進む際に、これらの遺伝子が働いて、体の各部位が形成されていきます。(参考資料3)

図 Evol Dev. 2015 Sep-Oct;17(5):258-69. doi: 10.1111/ede.12136.New insights into the vertebral Hox code of archosaurs Christine Böhmer , Oliver W M Rauhut, Gert Wörheide より抜粋一部変更
遺伝子発現の組み合わせについて
上図に示すように、頸部(中下位頸椎)の骨格は、7つの遺伝子が働くことで、形成されます(A-4、B-4、C-4、D-4、A-5、B-5、C-5)。頸部と胸部の移行部形成は、3つの遺伝子(A-6、B-6、C-6)によって決定されているようです。背骨の背側成分では6~8番の遺伝子が発現していることが示されています(文献4)。
頚椎・胸椎・腰椎・仙骨の数は、種によって数が決められていますが、腰椎が胸椎化したり、腰椎が仙椎化したり、それぞれの境界部分ではバリエーションも認められます。分節異常は頭蓋脊椎よりも脊椎の尾部で起こりやすい傾向があり、頸部の椎骨数は、非常に正確に保存されています。哺乳類において頸椎が7つしかないというのは、発生過程で頸椎数に異常が生じるような場合は、成長過程で成長できないように調整されているためと考えられています(文献5)。
補足:
頸肋について
下位頸椎(主に7番目)の肋骨が退化せず残ったものを頚肋といいますが、医学では、これは頚椎で頚肋があっても、頚椎の数は通常通り7つと数えます。ただし、発生学では、人間のC7上の頸肋は頸胸境界におけるホメオティック変換との解釈もあります。
ホメオティック変換について
Hox遺伝子にて合計の背骨の数は合計が合うよう明確に設計されています。ホメオティック変換(homeotic transformation)とは、椎骨の数そのものは変化せずに、遺伝子変異により体のある領域が(失われるのではなく)別の領域の構造に置き換わる現象のことです。例えばマウスでHox10遺伝子の機能が失われると、腰椎がすべて胸椎のような形に変化してしまうことが知られています。

図 https://www.riken.jp/press/2024/20241118_2/index.html
2024年11月18日 理化学研究所 東京大学 動物の種をまたぐ「背骨数ルール」を発見
-哺乳類は和が一定、鳥類はバランス重視- より抜粋
カモノハシとキリンとカバの頸椎(青)はいずれも7個ですが、胸椎(赤)、腰椎(紫)、仙椎(黄色)と尾椎(緑)の数は、それぞれの種で異なっています。しかし隣り合う領域の椎骨の数の合計は一定になっています。このような変化は、椎骨が別の領域の椎骨に変化するホメオティック変換で説明されます。(参考資料6)。
一方、メリスティック変換(martensitic transformation)は、椎骨の数そのものが増減するものを言います。哺乳類において、同種族内のメリスティック変換の発生は、非常に少ないと考えられています(文献5)。
ホメオティック変換は、人間でもかなりの頻度で起きています(文献7)。
人では主に次のような形で報告されています。頸椎と胸椎の境目がずれて、「頸椎なのに肋骨がつく」などの変化、腰椎と仙椎の境目がずれて、「仙椎が腰椎っぽくなる」または、「腰椎が仙椎っぽくなる」などの境界部分での変化が認められます。
人間の腰椎数のバリエーションについて
まず、遺伝子的に近いゴリラやチンパンジーの腰椎はふつう4つといわれています(文献8)。

図 Am J Phys Anthropol. 2021;1–12 Homeotic change in segment identity derives the humanvertebral formula from a chimpanzee-like one Scott A. Williams | David Pilbeamより抜粋一部変更
人においては腰椎の数は、一般に5つですが、4つある人、6つの人もおり個体差があります。5番目の腰椎が腰椎の下にある仙骨と癒合した場合、4腰椎となります。一方、5つの仙骨のうち1番上が分離して腰椎となった場合、6腰椎になります。不完全に癒合した脊椎形態を有する方もおられます。医学の世界では、移行椎という言い方をします。完全な6腰椎や4腰椎のみでなく不完全型も含めた腰仙部移行椎は,画像検査により偶発的に同定されることが多く,アメリカでの一般成人における有病割合は、35.6%であったという報告(文献9)があります。
日本の調査結果・・・胸腰部移行椎と腰仙部移行椎
整形外科患者5,702例を対象に、 腰仙部移行椎の割合は、5.2%であったと紹介されています(文献10)。
胸腰部移行椎については、1,179人の中で、正常な椎骨形態(胸部12節、腰椎5節)の人は、男性で76.7%、女性で75.8%でした。胸腰移行椎は男性の15.8%、女性の16.0%に存在しており、腰仙移行椎は、男性の7.1%、女性の9.0%存在していたとのことです。この調査で、疼痛に関しての有病率は、脊椎異常と臨床症状の間に有意な相関は認められなかったとのことです(文献11)。
別の文献では、胸腰部肋骨(胸腰移行椎との記載はなし)と腰仙部移行椎の関係について調査されています。
別の論文では、411例の椎間板ヘルニア手術症例の胸椎の第12胸椎(最下部の胸椎)の肋骨が形成不全のものと第1腰椎(最上部の腰椎)の肋骨(腰肋)があったものを調査しています。
腰仙部移行椎については、4腰椎+5番目が仙骨化しているもの(4腰椎)、ノーマル型(5腰椎)、5腰椎+仙骨が腰椎化しているもの(6腰椎)に分類しています。
胸椎の12番目の肋骨形成不全群では、4腰椎が、46.4%(5腰椎群6.4%、6腰椎群2.7%)と圧倒的に多く、肋腰がある場合は、4腰椎群で0%、5腰椎群で3.2%、6腰椎群で32.5%でした(文献12)。
この理由については、ホメオティック変換(椎骨の合計数は一定)を考えると理解しやすいと思います。
注:論文中には胸腰部肋骨との記載でしたが、胸腰部移行椎としています(論文には記載ありません)。4腰椎、6腰椎の記載は、完全型のみならず不完全型も含まれています。わかりやすくするために、簡略化して4腰椎、5腰椎としています(論文には記載ありません)。
胸椎、腰椎に数のバリエーションがあることがわかると思いますが、臨床的な症状がなければ椎骨の数の違いは大きな問題はないと考えます。
鳥の頸椎のバリエーションについて
動物に比べ、鳥類の頸椎の数にはかなりバリエーションがあります。
鳥類での頸椎の数も哺乳類と同様にHox遺伝子の働きによって決まっています。4つのクラスターがありますが、遺伝子情報の違い、遺伝子の働きがオンになるタイミング、遺伝子発現時の組み合わせなど哺乳類とは異なっています。
なぜ鳥類は、鶏のように14個の頸椎を有するのでしょうか? 実は鳥類の場合、種類によってかなりバリエーションがありますが、種類によって10~25個くらいばらつきがあります。これに対する面白い論文(下記文献13)があります。
Proc Natl Acad Sci U S A2024 Nov 19;121(47):e2411421121. doi : 10.1073/pnas.2411421121. Epub 2024 Nov 11.Homeotic and nonhomeotic patterns in the tetrapod vertebral formula
Rory T Cerbus , Ichiro Hiratani, Kyogo Kawaguchi )
椎骨の数(背骨の数)のパターンを網羅的に解析した結果、哺乳類と鳥類の脊椎骨の数において、鳥類では、動物のような椎骨の数が一定になるような制約がみられず、体の軸の前後の椎骨の数がほぼ等しくなるというバランス型制約であることが分かったというものです。
鳥類では、頸椎と胸椎の数の合計が、仙椎と尾椎の数の合計とほぼ等しくなっているようです(下図)。

鳥類の背骨の数 前後の背骨の数(頸椎+胸椎の椎骨の数≒仙骨+尾骨の椎骨の数)鳥類は、0付近に集中するようです。 (文献13)より抜粋一部変更
写真はhttps://www.sambanze.jp/picture_book/detail/B-0041.html ふなばし三番瀬海浜公園 ホームページ 鳥類の腰の骨(複合仙骨)より抜粋 (参考資料14)
始祖鳥などの原始的な鳥類でもこの関係は当てはまっており、鳥類が現れた初期から生じているパターンであるとしています(下図)。しかし、化石種の椎骨を解析したところ、比較的現生の鳥類に近いとされているティラノサウルスには当てはまらなかったようです。一方、哺乳類では、コウモリにもこのパターンが見られるとのことです。この結果、飛行という移動方法に適応するために、体の重心を一定に保つ必要性から生まれたパターンである可能性が示唆されるとのことです。

図 ヒトと他の種族との背骨の数の比較 (文献13)より抜粋一部変更
現時点では、種ごとのHox遺伝子と周辺のゲノム配列情報と椎骨数の関係は、明らかではないということですが、面白い発見であると思いました。

参考文献・参考図 資料
1)図1:THE BONE Vol.20 No.3 2006 5 95‐109(355‐369)ホネのかたち 第3回 哺乳類の骨格一脊柱一 Skeleton of mammals’ vertebral column一 帯広畜産大学獣医学科解剖学教室助教授 佐々木基樹
2)図2.:https://www.nig.ac.jp/nig/images/research_highlights/PR20210607.pdf
埼玉大学 国立遺伝学研究所 動物の発生を司るHoxクラスターは
脊椎動物の進化過程で機能が多様化した プレリリース
3)https://www.brh.co.jp/publication/journal/103/rp/perspective/
PERSPECTIVE 生きものを形づくるゲノム | JT生命誌研究館
4)Evol Dev. 2015 Sep-Oct;17(5):258-69. doi: 10.1111/ede.12136.New insights into the vertebral Hox code of archosaurs Christine Böhmer , Oliver W M Rauhut, Gert Wörheide
5)JOURNAL OF EXPERIMENTAL ZOOLOGY (MOL DEV EVOL) 285:19-26 (1999)
© 1999 WILEY-LISS, INC.Why Do Almost All Mammals Have Seven Cervical
Vertebrae? Developmental Constraints, Hox Genes,and Cancer FRIETSON GALIS
6)https://www.riken.jp/press/2024/20241118_2/index.html
2024年11月18日 理化学研究所 東京大学 動物の種をまたぐ「背骨数ルール」を発見
-哺乳類は和が一定、鳥類はバランス重視- より抜粋
7)Am J Biol Anthropol. 2022 Apr;177(4):690-707. doi: 10.1002/ajpa.24466. Epub 2021 Dec 29.The morphological consequences of segmentation anomalies in the human sacrum
Viktoria A Krenn, Cinzia Fornai, Nicole M Webb, Mirella A Woodert, Helmut Prosch, Martin Haeusler
8)Am J Phys Anthropol. 2021;1–12 Homeotic change in segment identity derives the humanvertebral formula from a chimpanzee-like one Scott A. Williams | David Pilbeam
9)Spine J. 2011 Sep;11(9):858-62. doi: 10.1016/j.spinee.2011.08.005.
The prevalence of transitional vertebrae in the lumbar spine Alexios Apazidis 1, Pedro A Ricart, Christopher M Diefenbach, Jeffrey M Spivak
10)J. Spine Res. 17: 22-28, 2026
Surgery between Adjacent Vertebrae in Bertolotti Syndrome Has a
High Reoperation Rate
Shogo Tahata Seiichiro Naruo Toru Fujimoto
11)Bone Joint J. 2021 Jul;103-B(7):1301-1308. doi: 10.1302/0301-620X.103B7.BJJ-2020-1760.R1.Transitional vertebrae and numerical variants of the spine : prevalence and relationship to low back pain or degenerative spondylolisthesis
Kosuke Sugiura, Masatoshi Morimoto, Kosaku Higashino, Makoto Takeuchi, Akihiro Manabe, Shoichiro Takao, Toru Maeda, Koichi Sairyo
12)整形外科と災害外科/59 巻 (2010) 2 号/書誌 腰仙部移行椎と胸腰部肋骨の形態異常の関係 森本 忠嗣, 小西 宏昭, 稲富 健司郎, 奥平 毅, 山根 宏敏, 津田 圭一10)Spine J. 2011 Sep;11(9):858-62. doi: 10.1016/j.spinee.2011.08.005.
The prevalence of transitional vertebrae in the lumbar spine Alexios Apazidis 1, Pedro A Ricart, Christopher M Diefenbach, Jeffrey M Spivak
13)Proc Natl Acad Sci U S A2024 Nov 19;121(47):e2411421121. doi : 10.1073/pnas.2411421121. Epub 2024 Nov 11.Homeotic and nonhomeotic patterns in the tetrapod vertebral formula
Rory T Cerbus , Ichiro Hiratani, Kyogo Kawaguchi
14)https://www.sambanze.jp/picture_book/detail/B-0041.html ふなばし三番瀬海浜公園 ホームページ 鳥類の腰の骨(複合仙骨)