• 2026年8月27日

腰痛と腰部椎間板のガス像 vacuum phenomenon(真空現象)について

いとうペインクリニック院長の伊藤です。今回は、腰部のレントゲンやCT画像において、比較的認められることの多い、椎間板内の黒っぽい画像であるvacuum phenomenon(真空現象)についてお話しします。

図 真空のイメージ画像をネットよりピックアップ(本文内容とは関係ありません)

参考資料

https://www.connect.co.jp/page/vacuum_Pressure

【真空の基礎知識】真空の特徴と圧力の分類 | 日本コネクト工業株式会社 – JC ELECTRONICS CORPORATION

https://rdec.co.jp/vacuum/ 真空とは 株式会社アールデック 茨城県つくば市

vacuum phenomenon 真空現象について

レントゲンやCT画像において、黒っぽい像が画像に認められることがあります。この正体は、気体(ガス)なのですが、vacuum phenomenon(真空現象)とよばれ、1937年にMagnussonにより初めてvacuum phenomenon (VP:以下VP)という用語が用いられました。

VPによるガス像は関節腔では線状・弧状の空気濃度として描出されます。レントゲン写真で、腰椎側面像で、しばしば椎間板を横走する透亮像としてVPを認めますが、CTではより微量のガス像のVP検出も可能です。

発生するVPのメカニズム

VPのガスの成分としては、主に窒素ガスが関連しているとされています。

メカニズムとしては、体内の密閉空間で組織の退行性変化による変性部分の可動性が亢進した結果、周囲組織の牽引により陰圧が発生し、組織中に溶解していた気体の溶解度が減少してガスが発生すると考えられています。

(気体発生メカニズム)

(ボイルの法則とヘンリーの法則)

 腰部レントゲン写真

写真 参考文献1)より抜粋一部変更

密閉空間で陰圧が発生すると、溶存ガスの気化がおこり(ヘンリーの法則)、密閉空間に気体部分が発生します。酸素と比べ溶解度が低く、代謝されない窒素が、VPの構成成分のほとんどを占めるとされています。上の画像は腰部のレントゲン写真ですが前屈でみられなかったVPが後屈という進展動作で椎間板腔に出現しています。

椎間板は特にVPの好発部位ですが、椎間板内ガス像は、椎間板の弾性の低下した変性椎間板の髄核が,脊椎の可動性に対応できず椎間腔に陰圧が生じやすいことと、椎間板に血流が少なく、発生したガスが吸収されにくいことが原因と考えられています。

補足:

正常状態でも、体内の密閉空間で陰圧状態になると、VPが生じることがあります。ある報告では、腕が上がった状態では、胸鎖骨関節で約20%の関節内ガスが観察されたが、ほとんどの被験者の関節内ガスは腕を下ろすと消失したとしています。四肢の牽引によると考えられるこれらの所見は、臨床的には重要性が低いと考えられています。

胸部CT横断像:上肢挙上時の関節内のVP画像は、腕を下ろすと消失した。

参考文献 

臨床画像 Vol.30, No.10, 2014  1128‐1140 特集読影に必要な異常ガス像の画像診断 骨・軟部・脊椎 福田健志  川上玲奈  尾上 薫  貞岡亜加里  福田国彦

より抜粋

それでは、椎間板内にできたガス像(VP)が認められた場合、腰痛や腰椎機能に影響があるのでしょうか? 

これについて調べられた国内研究があります(参考文献3)。

J Spine Res.12:773-779,2021 腰椎椎間板内ガス像と臨床所見―JOABPEQとVASを用いて― 勢理客 久 比嘉 勝一郎 屋良 哲也

この文献では、腰部脊柱管狭窄症患者さんの術前レントゲンとCT画像写真によって椎間板内ガス像(以下IVPと示す)のあった群となかった群で、腰痛(VAS評価)・下肢痛(VAS評価)・しびれ(VAS評価)と腰椎機能(JOABPEQ評価)に差があったかどうかを調べています。

補足

VAS:

長さ10cmの黒い線(左端が「痛みなし」、右端が「想像できる最大の痛み」)を患者さんに見せて、現在の痛みがどの程度かを指し示す視覚的なスケールです。数字が大きいほど痛みが強いことを表しています。

詳細については下記参考ホームページ参照願います。

https://www.jspc.gr.jp/igakusei/igakusei_hyouka.html?utm_source=openai

日本ペインクリニック学会

JOABPEQ:

腰痛に関する生活機能やQOLを多面的にみる質問票です。25項目の回答から評価され、合計点数で評価します。点数が高いほど良好とされています。

詳細については下記参考ホームページ参照願います。

https://ssl.jssr.gr.jp/medical/joa

 JOABPEQ/JOACMEQ | 一般社団法人 日本脊椎脊髄病学会

対象

219名(男性116名、女性103名)の腰部脊柱管狭窄症手術前の患者さんが対象となっています。

レントゲン、CTにてのIVP有無(+-)でグループに分け、患者背景、疼痛、しびれ、機能評価で統計的に差があるか調べられています。

論文中には、レントゲン、CTにてのIVP有無(+-)の評価についての写真が示されています。(抜粋写真を一部変更しています。)

   

 レントゲンIVP+  CT画像 IVP+   レントゲンIVP-  CT画像 IVP-

腰椎L4、L5(最下端の腰椎)と仙骨S1(最上端の仙椎)の位置を黄色で示します。

調査においては、32歳~59歳、 60歳~69歳、70歳~79歳、80歳以上に年齢を分けてのサブグループ解析も行われています。

結果

腰部脊柱管狭窄症手術の術前レントゲン・CT画像において、レントゲンでは、79人(33.3%)、CT画像で、156人(71.2%)にIVPが認められました。

論文中では、いくつかの報告結果より、IVPは、健常者では、1~3%、健常高齢者で21%、脊椎変性疾患を有する患者では、27~73%みとめられるとの記載がありました。

下のグラフは、腰椎椎間板部分に認められたIVPすべてについての件数を示したとグラフとなります。

VPは、L4/5椎間板に最も多く認められる結果となっています。

VPの有無の判定には、レントゲン(X-p)より、骨の細部構造の描出に優れたCTが優れていることがわかります。当クリニックでは、CT写真を撮ることはありませんが、日頃、レントゲン写真で認められるIVPの頻度は、L5/S1よりL4/5椎間板腔に認められることが多い印象を持っていましたが、この結果はその印象と一致しています。

IVP有無で比較した、疼痛の強さ、しびれの強さをVASで、機能面をJOABPEQを用いて評価しています。結果は以下の通りです。✳️✳️があるものが差が認められたことを表しています。

補足

✳️✳️p<0.01:有意差(統計学的に意味がある差があるかどうか)で差異を調べています。

全体的な評価については、IVP有り無し比較では、疼痛・しびれのVAS、JOABPEQを用いた機能面の評価において、統計的な有意差があったものは、年齢のみでした。このことは、加齢によってIVPが増加することを示していますが、疼痛や機能においてはIVPの存在が、有意差が出るほど疼痛、しびれの強さや機能面での低下を示すものではなかったことが示されています。

次に、年齢別(32歳~59歳、60歳~69歳、70歳~79歳、80歳以上)に分けてそれぞれの年齢でIVPの有無で疼痛や機能面で差があるかどうかも解析(サブグループ解析)しています。

各年齢層での解析

CTによるIVP有無でのVAS(腰痛)、JOABPEQ(疼痛関連)とレントゲン画像判定でのJOABPEQ(腰椎機能)の3つの評価項目でIVP有で有意(✳️)な悪化を認めました。

CTによるIVP有でのVAS(腰痛)、とレントゲン画像判定でのJOABPEQ(心理面)の2項目で有意(✳️)な悪化を認めました。

この60歳~69歳の年代においては、統計的に有意差の出た項目は1つもありませんでした。

CTによるIVP有でのVAS(腰痛)、とレントゲン画像判定でのJOABPEQ(歩行機能)の2項目でIVP有で有意(✳️)な悪化を認めました。

院長の感想

年齢とともに、IVPは増加する理由は、やはり加齢による変性が増加する為であると考えられます。サブグループ解析の結果をみての感想は、IVPがある群はない群に比較して、腰痛が強い傾向(VASが高い)があるのかな、程度の結果だと思います。

結論として、椎間板におけるVPそのものの検出は、その部位の変性があるということ以外の臨床的に強い意味合いはないのかもしれません。

補足

年齢別のサブグループ解析は、根拠が弱いと考えられています。全体解析より数も少なくなりますし、偶然の影響(何回も解析すると偶然の誤差が増加します)を受けやすくなります。あとから恣意的に切り分けると見かけの差が出やすいなどの問題もあります。

あくまで、参考程度の位置づけのものです。

その他のガス像

外傷や感染におけるガス像

周囲組織に活動性の炎症性変化が認められます。周囲に活動性の症状がないVPとの鑑別は比較的容易だと思います。

化膿性脊椎椎間板炎のレントゲン写真を示します。

ガス像がもっと認めれれる場合もありますが、椎間板に接する終板といわれる椎体部分が侵食され、ぐちゃと破壊されていることがるのがわかると思います。VPとは明らかに異なっています。

画像 Microorganisms. 2024 Apr 29;12(5):893. doi: 10.3390/microorganisms12050893.

Imaging of Spondylodiscitis: A Comprehensive Updated Review-Multimodality Imaging Findings, Differential Diagnosis, and Specific Microorganisms Detection Amandine Crombé, David Fadli, Roberta Clinca, Giorgio Reverchon, Luca Cevolani, Marco Girolami, Olivier Hauger, George R Matcuk, Paolo Spinnato より抜粋一部変更

圧迫骨折と圧迫骨折後の偽関節になった椎体のレントゲンを下に示します。

椎体内に,骨折線に沿った線状のガス像や液体貯留を認めることがあります。 

   

圧迫骨折後のCT写真      圧迫骨折2日後のMRI(STER)写真 白いには液

が溜まっているの表しています。

   

圧迫骨折後、偽関節となった部分のレントゲン写真

参考文献:

・臨床画像 Vol.30, No.10, 2014  1128‐1140 特集読影に必要な異常ガス像の画像診断 骨・軟部・脊椎 福田健志  川上玲奈  尾上 薫  貞岡亜加里  福田国彦 より抜粋

・日本医事新報 No.4750’ 2015.5.9 14-20 骨粗霧症性脊椎圧迫骨折に伴う遅発

性神経麻痺への後方進入脊柱再建術 侭田敏且より抜粋一部変更

圧迫骨折後のガス像はintravertebral vacuum cleft sign,液体貯留はfluid signとよばれ,両者が混在したり所見が認められることがあります。これは脆弱性骨折後の非治癒骨折でもみられる所見で,偽関節(骨折部位の離開)を形成を示しています。

骨腫瘍で見られる圧迫骨折について

一方,VPは、骨腫瘍で見られる圧迫骨折では生じにくいことから、病的骨折を否定する所見の1つとして知られています。この原因として、病的骨折ではガス発生に必要な陰圧がかかりにくいことと増大する腫瘍がガス発生に必要な空間を占拠してしまうことが原因と考えられています。

参考文献

1)臨床画像 Vol.30, No.10, 2014  1128‐1140 特集読影に必要な異常ガス像の画像診断 骨・軟部・脊椎 福田健志  川上玲奈  尾上 薫  貞岡亜加里  福田国彦

2)Radiat Med. 2008 Aug;26(7):422-6. doi: 10.1007/s11604-008-0253-8. Epub 2008 Sep 4.

MDCT demonstration of intraarticular gas in the glenohumeral joint and sternoclavicular joint with reference to arm position Haruhiko Ito, Takeharu Yoshikawa, Naoto Hayashi, Kuni Ohtomo

3)J Spine Res.12:773-779,2021 腰椎椎間板内ガス像と臨床所見―JOABPEQとVASを用いて― 勢理客 久 比嘉 勝一郎 屋良 哲也

今回は、腰部レントゲンやCT画像において、比較的認められることの多い、椎間板内の黒っぽい画像であるvacuum phenomenon(VP:真空現象)についての話をさせていただきました。加齢による組織の変性によってVPは増加すると考えられますが、健常者(症状がない人)にも認められます。VPイコール腰痛と言うわけではありません。

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