• 2026年8月21日

尾骨痛(Coccydynia:コクシディニア)・・・尾骨骨折・脱臼について

いとうペインクリニックの院長の伊藤です。尾骨部分が痛いと言って来院される患者さんがおられます。尾骨痛(Coccydynia:コクシディニア)の原因は、打撲、骨折、脱臼、靭帯不安定性などの筋骨格系の損傷から感染症(骨髄炎)、悪性腫瘍(脊索腫など)まで多岐にわたりますが、今回は見る機会が多い尾骨骨折・脱臼を中心に話をしたいと思います。

     

図 https://orchardhealthclinic.com/coccydynia-tailbone-pain/尾骨痛(尾骨痛) |オーチャード・ヘルスクリニック – オステオパシー、理学療法、カイロプラクティック より抜粋 一部変更

はじめに

尾骨は脊椎の最下部に位置し、坐骨結節とともに骨盤三脚を形成しています。尾骨痛の原因となる尾骨骨折・脱臼の大部分は、垂直に落下して臀部に着地するなど、直接的な外傷によって引き起こされます。

骨盤三脚とは

両側の坐骨結節(左右下臀部)と尾骨(中央)によって形成されます。この三脚は座った状態での体重を支えます。

          

図 骨盤を下よりのぞいた骨盤底についての画像 

https://pelvicfloor.jp/about/ 骨盤底筋とは | 骨盤底スマイルプロジェクト – 全国骨盤底協会 National Association for Pelvic Health (NAPH)より図を抜粋し一部変更した。

尾骨は、肛門を骨盤底の位置に保持しています。また、尾骨は仙骨関節と仙尾関節を形成しており、座っている時に前方屈曲するなどの適度な尾骨の動きを可能にします。

疫学

2010年から2018年の韓国の調査研究によると、尾骨骨折・脱臼は、10万人あたり119.75件(男性患者:10万人あたり33.44件、女性患者:86.30件)で、男女の発生比は1:2.6でした(他の報告においては、尾骨痛(コクシディニア)は、女性は男性の5倍多いとの報告もあります。)。また、発症率は思春期(10〜14歳)の男性、更年期(50〜54歳)の女性で最も発生数が多くなっていました。また尾骨骨折・脱臼は、冬季に頻繁に起こることが報告されています。

解剖

           

図 In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2026 Jan. 2025 Aug 9.  Coccyx Pain Hunter L. Bain, Ahmed Mabrouk , Patrick Foye より抜粋一部変更

この画像は尾骨(Co1–4)と仙椎(S1–5)の解剖学を示しています。

尾骨は脊柱の終末領域です。尾骨は一本の骨を示唆しますが、実際には3〜5つの独立した椎骨体から成り、それらが融合しているかどうかは個人差があります。尾骨はギリシャ語でカッコウ(鳥)のくちばしを意味しますが、尾骨側面がカッコウのくちばしに似ているところから命名されたようです。

尾骨周囲の神経について

図 尾骨周囲の神経

日本ペインクリニック学会誌 Vol.28 No.6, 2021 症例 不対神経節ブロック後に会陰部痛と吻合部腸管の虚血性腸炎様粘膜が改善した1例 唐澤祐輝 中川雅之 林摩耶 上島 賢哉 安部洋一郎 より抜粋

尾骨部分の神経として、感覚神経である尾骨神経叢と交感神経節の不対神経節が存在しています。肛門尾骨神経と、尾骨神経(感覚神経)が、合わさって尾骨神経叢を形成していますが、これは尾骨の周辺部分の感覚を支配しています。尾骨は肛門尾骨靭帯を介して、肛門括約筋の一部にも付着し、直腸の後方部分に存在していますので、尾骨の骨折や脱臼によって、便をするときにいきんだりした際、後方への圧により尾骨痛や不快感を伴うことがあります。

画像によって尾骨の形態は、以下のように分類されます。

Postacchini and Massobrio分類

https://www.mskrad.com.br/post/coccidinea Coccidínea より抜粋

タイプI:尾骨がやや前方に曲がり、先端が尾方向

タイプII:尾骨はより前方に大きく湾曲

タイプIII:尾骨は第1節と第2節、または第2節と第3節の間で鋭く前方に曲がっている

タイプIV:尾骨が仙尾関節または第1または第2尾骨間関節のレベルで前方に亜脱臼

タイプV:尾骨が後ろを向いている

タイプVI:尾骨が側方偏位している

分類資料

https://radiopaedia.org/articles/anterior-angulation-of-the-coccyx?utm_source=openai 尾骨の前方角度|放射線学参考記事 |Radiopaedia.org

尾骨骨折・脱臼について

原因

尾骨は脊椎の最端に位置し、座っている状態では体の最も低い位置にあります。もし誤って滑ってお尻に直接着地すると、地面に直接接触する衝撃で尾骨が骨折する可能性があります。さらに、自動車事故では、突然の前後への衝撃も尾骨骨折を引き起こすことがあります。尾骨骨折・脱臼は、尾骨の形態に依存すると考えられています。垂直型は皮膚にすぐ近いため外部からの力による損傷を受けやすく、対照的に、湾曲またはフック型の尾骨は外部からの損傷を受けにくいとされています。

尾骨骨折および脱臼の主な原因は直接的な衝撃とされていますが、出産も尾骨骨折・脱臼・尾骨痛の原因となります。

疫学のところでも述べましたが、女性における尾骨骨折の発生率が多いのですが、この原因として、閉経期で高いことから、尾骨骨折が骨粗鬆症と関連していると考えられています。また、尾骨の形態が、男性に比べ尾骨がよりまっすぐで、後ろに倒れた時に尾骨骨折を起こしやすいとする報告もあります。

男性の思春期における高い発症率の原因としては、2つの要因が考えられています。1つは、 骨の急速な成長とは対照的に、骨の石灰化が比較的遅れ、骨の脆弱性が増加することで、もう1つは、 この年齢層における激しい身体活動によるというものです。

冬季の骨折増加は、他の部位の骨折も含め、低温が骨折感受性を高める可能性があるとの考えもあります。

出産に関してですが、出産時、尾骨は胎児の圧迫により後方に力をうけますが、胎児が通過する際に、過度の圧迫により尾骨骨折や脱臼を引き起こすことがあります。出産による尾骨骨折・脱臼は稀で見過ごされがちですが、主に硬い場所に座ったときの局所的な痛みとして現れ、立っているか横向きに寝ることで緩和されます。産後の尾椎痛の患者57名を分析し、尾骨脱臼が17.0%で起こり、尾骨骨折が5.3%で観察されたという報告もあります。

尾骨痛(コクシディニア)に関してですが、骨折・脱臼がなくとも、急激な体重減少は、臀部の脂肪のクッション効果が失われることで尾骨痛のリスク因子になるとも報告されています。特発性では、明確な原因や特定の原因なしに痛みが発症することが多いですが、長時間の立位、性交、排便などが原因となることもあるようです。

診断

尾骨骨折・脱臼を含む尾骨痛については外部触診での、尾骨の局所的な圧痛(肛門の近くで体の正中部位)が有用です。直腸内触診では、可動性の増加が検出され、脱臼や骨折部位に痛みが伴うことがあります。尾骨骨折・脱臼の確定診断にはレントゲンやCTなどの画像による診断が用いられます。可能であれば、立位と座位の仙骨の可動も含めた比較をおこなうことが診断には好ましいです。

妊娠中の尾骨骨折・脱臼の診断には、MRIスキャンが推奨されています。尾骨骨折・脱臼部位周辺の骨髄浮腫が、診断に役立ちます。MRIは局所的な悪性腫瘍および非悪性腫瘍のスクリーニングにも有用です。

尾骨骨折は病因に基づきI型からIII型に分類され、屈曲、圧迫、伸展に分類されます。

タイプIは屈曲骨折:通常は転倒や直接衝突によって発生します。

タイプIIは圧縮骨折:垂直骨折線がそれぞれの尾骨椎に影響を及ぼします。

タイプIIIの伸展骨折:主に分娩中の強制的な伸展による産科骨折として発生します。

 

尾骨痛とは区別すべき尾骨部の痛みを引き起こす可能性がある疾患について 

・仙腸関節の痛みや炎症

・膿瘍または洞を伴う嚢胞

・坐骨神経痛

・痔

・臀部の帯状疱疹やその他の感染症

・梨状筋症候群

・悪性腫瘍(軟索腫や軟骨肉腫)

・骨盤底筋の痛み

尾骨骨折・脱臼の治療

基本は、保存療法です。尾骨は運動機能をはたさないため、尾骨の骨折脱臼は通常、患者の日常生活に著しく支障をきたすことはなく、整復は通常必要ありません。

保存的治療

一般的に、尾骨骨折・脱臼の90%は保存的治療で治癒すると考えられています。尾骨損傷部位に体重をかけないために、穴あきのクッションの使用や、横向きの姿勢が推奨されます。また、食事の調整をおこない、直腸排便の圧力を軽減し、尾骨の可動性を低下させるような考慮がなされます。

外傷による局所的な痛みは、経口の非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を中心に痛みを緩和します。痛みが強い場合は、局所麻酔薬とステロイドを直接注射する方法もあります。

その他、パルス高周波(PRF)療法、衝撃波療法(ESWT)、 直腸内操作による尾骨骨折脱臼整復などの方法がとられることもあるようです。

基本的に神経損傷はともないませんが、坐位時の疼痛が慢性的に残存してしまうこともあります。保存的治療を6か月続けても症状が改善しない場合は、手術が検討されることがあります。

外科的治療

尾骨骨折脱臼の外科的治療は主に4つの方法に分けられるようです。(①ポリメチルメタクリレート(PMMA)尾骨形成術、②骨折部位または尾骨の切除術、③切開・復位による骨折脱臼の内固定、④8字型の低侵襲縫合)

尾骨切除術についての写真

Int J Spine Surg. 2022 Feb;16(1):11-19. doi: 10.14444/8171. Epub 2022 Feb 17.

Clinical Outcomes of Coccygectomy for Coccydynia: A Single Institution Series With Mean 5-Year Follow-Up Neha Mulpuri , Nisha Reddy , Kylan Larsen , Ankit Patel , Bassel G Diebo , Peter Passias , Lori Tappen , Kevin Gill , Shaleen Vira より抜粋

参考文献

In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2026 Jan.

2025 Aug 9.  Coccyx Pain Hunter L. Bain, Ahmed Mabrouk , Patrick Foye

Exp Ther Med. 2025 May 6;30(1):127. doi: 10.3892/etm.2025.12877. eCollection 2025 Jul.

Progress in the diagnosis and treatment of fracture‑dislocation of the coccyx (Review)

Yuqiong Zhang , Guoxi Gao

整形外科看護 2023 vol.28 no.8 (757) 61 尾骨骨折 小野瀬喜道

尾骨骨折は、ほとんどの場合、保存療法でよくなることが多いです。痛みの強いときは、内服薬やブロック注射、穴あきのクッションで直接、尾骨部分に体重を乗せないようにすることなどの対応が必要です。まれに半年以上痛みが継続する場合は、尾骨切除などの手術も考慮されます。

いとうペインクリニック 06-6755-9074 ホームページ