• 2026年6月7日

新規の睡眠薬 ボルノレキサント(ボルズィ®)の持ち越し効果(翌日の眠気)は?

いとうペインクリニック院長の伊藤です。オレキシンは視床下部に局在する神経細胞から分泌される神経ペプチドであり、覚醒維持の中心的な役割を果たしています。オレキシン受容体拮抗薬(DORA)は、オレキシン1(OX1)受容体およびオレキシン2(OX2)受容体に対して、神経ペプチドのオレキシンと拮抗作用によって覚醒系を抑制し、生理的な睡眠を誘導する薬剤です。DORAは、ベンゾジアゼピン系、Z系睡眠薬に比べ、安全性が高いとされています。

2025年11月27日より、第4番目のオレキシン受容体拮抗薬(DORA)ボルノレキサント(ボルズィ®)が、使用可能となりました。睡眠薬の副作用として、翌日の持ち越し作用(眠気)がありますが、DORAの中で最も短い半減期を持ち、翌日の持ち越しリスクがより少ないと考えられています。

参考文献

・日薬理誌(Folia Pharmacol. Jpn.)161,192~197(2026)

DOI:https://doi.org/10.1254/fpj.25096 新規オレキシン受容体拮抗薬ボルノレキサント(ボルズィ®錠2.5mg,5mg,10mg)の薬理学的特徴と臨床試験成績 横田 遥,地野 之浩,柴山 加世子,茶木 茂之,今寺 祐美子

・Int J Neuropsychopharmacol. 2025 Dec 1;28(12):pyaf077. doi: 10.1093/ijnp/pyaf077. Current and novel dual orexin receptor antagonists for the treatment of insomnia: the emergence of vornorexant Yukihiro Chino, Hiroyuki Sugiyama , Shigeyuki Chaki , Yuri Sato


先行の3つの二重オレキシン受容体アンタゴニスト(DORA)であるスボレキサント(ベルソムラ®)、レンボレキサント(デエビゴ®)、ダリドレキサント(クービビック®)は、翌日の持ち越し効果に関して、添付文書には「本剤の影響が服用の翌朝以後に及び、眠気、注意力・集中力・反射運動能力等の低下が起こることがあるので、自動車の運転など危険を伴う機械の操作に従事させないよう注意すること。」と記載されています。

一方、ボルズィ®の添付文書には、「不眠症あるいは本剤の影響により、眠気、注意力・集中力・反射運動能力等の低下が起こることがある。患者の状態を十分に把握した上で、自動車の運転等の危険を伴う機械を操作することの適否を慎重に判断し、危険を伴う作業等を行う場合には十分な注意が必要であることを適切に患者に指導すること。」との記載であり、先行 of 3つの睡眠薬とは記載のされ方が異なっています。

睡眠薬の翌日の持ち越し効果(眠気)は、日中のパフォーマンスの低下のみでなく、車の運転や高所作業での仕事禁止などの日常活動の制限などを伴いますので、使用には注意が必要となります。今回、新薬のボルノレキサント(ボルズィ®)について、翌日の持ち越し効果(眠気)について以下の文献を参考にした私の印象をお話しします。


(文献1)Psychiatry and Clinical Neurosciences 79: 757–764, 2025 Driving performance in the morning after bedtime vornorexant administration: A randomized clinical trial using a driving simulator Yusuke Miyazaki, MS , Kunihiro Iwamoto, MD, PhD, Daiji Kambe, PhD, Yumiko Imadera, MS, Isao Matsushita, MS and Norio Ozaki, MD, PhD

ボルノレキサント10mgおよび20mgの単回および反復投与は、健康な日本人参加者における運転パフォーマンスに臨床的に有意な障害を誘発しませんでした。

まずは、ボルズィ®10mgまででは投与翌日の運転技能等の評価で臨床的に意義のある影響は認めず、持ち越し効果を生じる可能性が低いことが臨床試験より示唆されていますので、翌日の運転に対しての安全性は高そうです。


次に、DORA製剤の比較による翌日の持ち越し効果(眠気)に対する比較について記載のあった文献を調べてみました。

(文献2)Transl Psychiatry. 2025 Jun 24;15(1):211. doi: 10.1038/s41398-025-03439-8. Comparative efficacy and safety of daridorexant, lemborexant, and suvorexant for insomnia: a systematic review and network meta-analysis Taro Kishi, Toshikazu Ikuta, Leslie Citrome, Kenji Sakuma, Masakazu Hatano, Shun Hamanaka, Yasufumi Nishii, Nakao Iwata

ネットワークメタアナリシスの手法を用いて、不眠症患者に対して、プラセボ(偽薬)、クービビック®、デエビゴ®、ベルソムラ®の眠気の強さについて解析がなされています。異質性が大きかったため、感度分析で異質性が少なくなるよう調整されています。そして、すべての薬剤間の眠気の強さについて比較がなされています。有意差は、信頼区間が1.000をまたいだ場合、統計的には有意差が無いとなってしまいますが、信頼区間の振れ幅が大きいので、信頼区間(有意差)を無視してみています。

プラセボ(偽薬:睡眠薬の作用なし)に対してのクービビック®、デエビゴ®、ベルソムラ®の眠気の強さの比較より、クービビック®25mgと50mgでは翌日の眠さに大きな差はなく、翌日の眠気の頻度は最も少ない結果になっています。次に、デエビゴ®5mgとベルソムラ®15mgと20mgが、同等の眠気の頻度を有し、デエビゴ®10mgが最も眠気が強い頻度で発生し、翌日の持ち越し効果が残存するのかなという印象を持ちました。しかし、この中では持ちこし作用(眠気)が最も少ないと考えられるクービビック®もやはり、プラセボに対しては眠気を誘発することが示されています。

眠気は デエビゴ®10mg > デエビゴ®5mg ≒ ベルソムラ®20mg/15mg > クービビック®50mg ≒ 25mg > プラセボ(偽薬)といった感じでしょうか。

補足:本文では有意差のあった、クービビック®25mg、デエビゴ®10mg、ベルソムラ®15mgと20mgがプラセボに対し眠気が強かったとされていますが、薬理作用的にクービビック®25mgの方が50mgより眠気が強いというのは、おかしな話です。有意差は、サンプルサイズに左右されますので、論文の解釈とは異なりますが、あえて無視をしています。


(文献3)J Psychiatr Res. 2020 Sep:128:68-74. doi: 10.1016/j.jpsychires.2020.05.025. Epub 2020 May 28. Lemborexant vs suvorexant for insomnia: A systematic review and network meta-analysis Taro Kishi, Ikuo Nomura, Yuki Matsuda, Kenji Sakuma, Makoto Okuya, Toshikazu Ikuta, Nakao Iwata

不眠症患者に対するデエビゴ®とベルソムラ®のネットワークメタ解析の結果、デエビゴ®10mgは、ベルソムラ®15mg/20mgより翌日の眠気のリスクが高いとあります。


(文献4)Sleep Med. 2021 Apr:80:333-342. doi: 10.1016/j.sleep.2021.01.048. Epub 2021 Feb 1. Long-term effectiveness and safety of lemborexant in adults with insomnia disorder: results from a phase 3 randomized clinical trial. Jane Yardley , Mikko K€ , Yuichi Inoue , Kate Pinner, Carlos Perdomo ,Kohei Ishikawa , Gleb Filippov , Naoki Kubota , Margaret Moline

不眠症患者に対する投薬翌日の眠気について、デエビゴ®10mgで13.1%、デエビゴ®5mgで8.6%、プラセボで1.6%であったとのことです。


(文献5)Lancet Neurol. 2014 May;13(5):461-71. doi: 10.1016/S1474-4422(14)70053-5. Epub 2014 Mar 27. Safety and efficacy of suvorexant during 1-year treatment of insomnia with subsequent abrupt treatment discontinuation: a phase 3 randomised, double-blind, placebo-controlled trial David Michelson, Ellen Snyder, Erin Paradis, Mary Chengan-Liu, Duane B Snavely, Jill Hutzelmann, James K Walsh, Andrew D Krystal, Ruth M Benca, Martin Cohn, Christopher Lines, Thomas Roth, W Joseph Herring

不眠症患者に対する投薬翌日の眠気について、眠気の%は、スボレキサント(ベルソムラ®)65歳未満に40mgで65歳以上に30mg内服(日本で認められた通常の2倍の量を投与)で13.2%、プラセボで2.7%であったとのことです。


(文献5‐1)Biol Psychiatry. 2016 Jan 15;79(2):136-48. doi: 10.1016/j.biopsych.2014.10.003. Epub 2014 Oct 23. Suvorexant in Patients With Insomnia: Results From Two 3-Month Randomized Controlled Clinical Trials W Joseph Herring, Kathryn M Connor, Neely Ivgy-May, Ellen Snyder, Ken Liu, Duane B Snavely, Andrew D Krystal, James K Walsh, Ruth M Benca, Russell Rosenberg, R Bart Sangal, Kerry Budd, Jill Hutzelmann, Heather Leibensperger, Samar Froman, Christopher Lines, Thomas Roth, David Michelson

不眠症患者に対する投薬翌日の眠気について、眠気の%は、2回の試験でそれぞれ以下のような結果となっています。

1回目:スボレキサント(ベルソムラ®)30/40mg:10.7%、15/20mg:5.1%、プラセボ:3.4%

2回目:スボレキサント(ベルソムラ®)30/40mg:10.3%、15/20mg:8.4%、プラセボ:3.1%


(文献3)、(文献4)と(文献5,5-1)の結果から、デエビゴ®10mgが、翌日の持ち越し作用が強く、デエビゴ®5mgとベルソムラ®15/20mgが、同等の強さではないかと推察しました。


(文献6)Sleep Med. 2024 Oct:122:27-34. doi: 10.1016/j.sleep.2024.07.037. Epub 2024 Aug 2. Daridorexant in Japanese patients with insomnia disorder: A phase 3, randomized, double-blind, placebo-controlled study Naohisa Uchimura, Mitsutaka Taniguchi, Yu Ariyoshi, Yasunori Oka, Osamu Togo, Makoto Uchiyama

不眠症患者に対する投薬後の最も一般的な有害事象は、翌日の眠気で、クービビック®50mgで6.8%、25mgで3.7%、プラセボで1.8%でした。しかし、眠気の程度は軽度で治療中止後の反跳や離脱症状は認められなかったとのことです。


(文献7)Sleep. 2026 Mar 11;49(3):zsaf291. doi: 10.1093/sleep/zsaf291. Efficacy and safety of vornorexant in Japanese patients with insomnia: a randomized, placebo-controlled phase 3 pivotal study Makoto Uchiyama, Daiji Kambe, Sayaka Hasegawa, Yumiko Imadera, Hironori Yamasaki, Naohisa Uchimura

不眠症患者に対する投薬後の最も一般的な有害事象は、翌日の眠気で、ボルズィ®10mgで3.6%、5mgで3.1%、プラセボで1.5%でした。しかし、眠気の程度は軽度で治療中止後の反跳や離脱症状は認められなかったとのことです。


(文献6)と(文献7)の異なる文献で、眠気の数字だけで比較するのは正確ではないですが、同様の研究が実施された結果を診るとボルズィ®5mgで眠気の残存は少なく、ボルズィ®10mgとクービビック®25mgは、同様の翌日の眠気の残存程度であると推察します。


まとめ

院長のDORA製剤に対する翌日の持ち越し効果(眠気の副作用)の強さは、(文献1~7)の結果より、デエビゴ®10mg > デエビゴ®5mg ≒ ベルソムラ®20mg/15mg > クービビック®50mg > クービビック®25mg ≒ ボルズィ®10mg > ボルズィ®5mg > プラセボ(偽薬)といった感じではないかと思います。


個人差がありますので言い切れないですが、ボルズィ®10mgを試したところ、初日は、半減期の短さのわりに持ち越し効果のような重だるさ(倦怠感)を経験しました。しかし、その後は、翌日はすっきり起きられますし、切れが良くて効果が高い睡眠薬だと実感しています(ボルズィ®初回投与は、5mgからが推奨されています)。

ボルズィ®は、残存効果が低い点が、長所であると考えています。

ボルズィ®の話となってしまいましたが、他のDORA3剤にもボルズィ®にはない長所がありますし、DORAの3薬剤でも残存効果のない人は普通におられます。要は、自分に合った使い分けが大切になってくると思います。

「不眠症」は、思考力の低下やいらいらなどを誘発し、生活の質(QOL)を大きく低下させてしまいます。我慢せず、ぜひ一度、当院にご相談ください。

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