- 2026年6月3日
手をついて手首に痛みが発生した場合 手関節・手部における痛みについて
高齢の方が、手をついて手首に痛みを訴えて来院された場合、橈骨遠位端骨折をまずは念頭におきますが、骨折の判断はつきにくい場合もあります。しかし、骨折の可能性がある場合や明らかな骨折で固定の必要性がある場合には、整形外科専門医のいる近隣病院へすぐに紹介しています。いとうペインクリニック院長の伊藤です。今回は手をついて手首に痛みが発生した場合の疾患についての話となります。
まずは疼痛部位の確認を行います。
手首に痛みのある場合(骨折の有無確認)のX線は、少なくとも正面・側面の2方向で行います。
手関節2方向撮影

面川庄平 より抜粋
当院では、外科用Cアームを用いて、2方向撮影とその際、異常な可動が無いか、ストレス検査をしています。
疼痛部位の触診は大切です。
手をついて痛みが発生した場合、成人では橈骨遠位端骨折、舟状骨骨折を疑います。手指・肘関節・肩関節の骨折や脱臼もチェックが必要です。画像にて、疼痛部位の皮質骨輪郭をチェックし、皮質骨の連続性の途絶や骨折線の有無を確認しますが、転位の少ない骨折は見落とす可能性もあります。
橈骨遠位端骨折
手をついて体を支えようとして受傷することが多いですが、骨折部で大きく転位した場合はフォーク状変形を呈するため、骨折判定は容易です。


【遭遇頻度の高い主訴から考える,手をついた基本的な診かた】 西頭知宏 より抜粋一部変更

図 整形外科看護2023 vol.28 no.12(48‐52) 骨粗鬆症で起こりやすい骨折 橈骨遠位端骨折 濵野博基 より抜粋
フォーク状に変形した橈骨遠位端の骨折は、外科的な固定が行われます。ギプス固定の際はMP関節をまたがないように固定します。
骨片の転位(骨折した部分が離開している場合)がほとんどない例では、変形が見られないため、圧痛点があり、軋聴音,異常可動性などがあれば骨折を疑います。
小児の若木骨折では圧痛のみのことがあり,経過とともに痛みが軽快しない例では骨折や骨端線損傷骨折を疑い、健側と比較して骨端核の転位があればこれを疑い見逃さないようにすることが大切です(可能性があれば、近隣の整形外科クリニックまたは病院を紹介します)。

補足:
リスター結節:橈骨遠位端の一部で手の背面(真ん中よりやや親指側)に触れられる突起部分
橈骨茎状突起:前腕の橈骨側面(親指側)に沿って触診していくと手首で小さなでっぱりに触れることができます。
Snuff box:手首の親指側、親指をピンと立てたときにできる三角形のくぼみのことです。昔ここに刻みタバコをのせて鼻から吸っていたことから、この名前がついています。長母指伸筋腱と短母指伸筋腱との間にできた空間です。
舟状骨骨折
橈骨遠位端骨折以外の骨折として、舟状骨骨折の可能性があります。
舟状骨骨折は手根骨のなかで最も頻度の高い骨折で手根骨骨折の60~80%を占めるとされますが, 初期に骨折が見逃されることも少なくありません。Snuff box や舟状骨結節部分に圧痛があれば、安易に骨折がないとは言えません。舟状骨骨折は、若い男性に多く小児や高齢者では少ないとされています。

【遭遇頻度の高い主訴から考える,手をついた基本的な診かた】 西頭知宏 より抜粋一部変更
舟状骨は血流が悪く、骨折の放置で偽関節になる場合もあります。Snuffbox,舟状骨結節に圧痛がある場合には、X線で明らかな骨折が指摘できない場合でも骨折の可能性は否定できません。

内山茂晴 林 正徳 伊坪敏郎 植村一貴 小松雅俊 加藤博之 より抜粋一部変更
初診時、骨折は認められなかったが、5か月後偽関節が明らかとなっています(転移が明らかでない場合も、偽関節となる場合があります)。舟状骨骨折は、骨折部位によって腰部、近位、遠位部と分けられますがこの順番で骨折部位の頻度は高いとされています。舟状骨撮影で骨片の転位や骨片問ギャップが1mm以上の場合に、転位ありと判断されています。
転位がない場合は、ギプス固定か内固定(スクリユーによる骨固定)の治療方法がありますが、スクリュー固定の方が早く職場復帰できます。転移がある場合は、手術しない場合は、約半数が偽関節となるようです。
追加:
舟状骨の腰部においては、骨折が2mm以下の位置で変位した成人患者は、初期にはギプス固定を行い、非癒合の疑いがある場合に、非癒合を確認して直ちに手術で修復がよいとの報告もあります。(Lancet. 2020 Aug 8;396(10248):390-401.)

受傷の急性期では、手首の母指側が腫れ、痛みがあります。急性期を過ぎると一時軽快します。しかし、偽関節になると、手首の関節の変形が進行し、手首に痛みが生じて、力が入らなくなり、また動きにくくなってくることがあります。変形性関節症を伴う偽関節になったのち、疼痛がある場合は、保存療法として、NSAIDs、サポーターによる固定,関節内ステロイド薬注射などがありますが、手術については手の外科専門の整形外科の先生の判断となります。
参考文献・資料
・関節外科 Vol.35 10月増刊号(2016)149‐157 特集 初期研修医・後期研修医のための必修整形外科 Ⅳ. 診察法と診断ピットフォール 手関節・手部 奈良県立医科大学手の外科学
面川庄平
・レジデントノート Vol.24 No.15(1月号)2023 (2593—2599)
【遭遇頻度の高い主訴から考える,手をついた基本的な診かた】 西頭知宏
・MB Orthop.27(4):9-16,2014特集 難治性手関節病変の治療 舟状骨骨折の治療
内山茂晴 林 正徳 伊坪敏郎 植村一貴 小松雅俊 加藤博之
・https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/scaphoid_fracture.html 公益社団法人 日本整形外科学会 ホームページ 症状・病気をしらべる 舟状骨骨折
・Lancet. 2020 Aug 8;396(10248):390-401. doi: 10.1016/S0140-6736(20)30931-4.
Surgery versus cast immobilisation for adults with a bicortical fracture of the scaphoid waist (SWIFFT): a pragmatic, multicentre, open-label, randomised superiority trial Joseph J Dias et al.

当ペインクリニック内科では、整形外科疾患に起因する痛みの治療は扱っておりますが、骨折や捻挫に対するシーネやギブス固定は実施していません。手関節の骨折・捻挫が疑われる場合には、まずは、お近くの整形外科(可能ならば、手の外科専門医のいる)クリニックまたは病院を受診されることをお勧めします。