- 2026年5月10日
胸部痛を訴える患者さん 年代別原因疾患と危険な胸部痛の見方について
いとうペインクリニックの院長の伊藤です。胸部痛といってもいろいろあります。当ペインクリニック内科では、帯状疱疹による胸部痛を診ることが多く、それ以外には、筋肉痛、打撲や肋骨骨折、圧迫骨折(主に胸腰移行部)、肋間神経痛、偽狭心症(頸椎症性神経根症)、心因的なものによると考えられるような胸部痛の疼痛管理もおこなっています。
しかし、診療にあたって、胸部痛の診察をする際は、心臓や大動脈、肺などに発生する緊急性の高い疾患(心筋梗塞、大動脈解離、肺血栓塞栓症、緊張性気胸など、判断が遅れれば致命的ともなる疾患)を鑑別することが、大変重要となってきます。
今回は、非外傷性胸部痛で米国内での救急外来を受診した患者さんの年代別の原因疾患の頻度についての論文がありましたのでご紹介します。(米国においては、成人の救急外来受診者の訴えとして、非外傷性胸部痛は2番目に多い受診原因とのことです。)
補足のところで示しました「胸部痛の発症様式・持続時間について」と共に、胸部痛の参考にしていただければと思います。
JAMA Intern Med. 2016 Jul 1;176(7):1029-32. doi: 10.1001/jamainternmed.2016.2498.
A National Study of the Prevalence of Life-Threatening Diagnoses in Patients With Chest Pain Renee Y Hsia , Zachariah Hale , Jeffrey A Tabas
米国国立健康統計センターが実施した、国立病院外来医療調査データベースの中で2005年1月1日から2011年12月31日までの期間内において非外傷性胸痛で救急外来を受診した18歳以上の成人の診療記録をもとに、胸部痛の原因について調べられています。
結果
主となる症状が非外傷性の胸部痛である10,907件の患者記録を分析しています。
受診者の大半は18歳から64歳の年代(8,215人[75.6%])で、女性の割合が、やや高く5,685人[52.7%]でした。非ヒスパニック系の白人(6,904人[64.5%])が多く、都市部での治療は9,519人[84.4%]でした。診察結果に関しては、外来のみの退院率は57.4%( 6219人)、入院率は30.6%(3331人)、救急外来または病院での死亡は0.4%(51人)でした。100%にならないのは、記録が未記録のものもあったためです。
以下に、アメリカでの救急外来を非外傷性胸部痛で受診した患者さんの年代別の原因疾患トップ10について列挙します。
表記の説明
・Weighted%:サンプルの重要度、頻度などを考慮して計算し直した、調整済みのパーセントのこと。
・(95%CI):95%信頼区間:割合の精度を表しています。(~)の範囲で割合が変動。
・a :30未満の少ない記録は、精度の低い記録として統計上取り扱われています。
要は、ザクっと診断した疾患の割合(%)の理解でいいと思います。
18歳以上~45歳未満

心臓に関しては、7番目に不整脈がありますが、全体に占める割合は1.8%と低いです。よくわからない良性の胸部痛と考えられる非特定の胸部痛を除いた場合、呼吸時痛の割合が9.7%と高く、気胸などの有無などレントゲンを用いた検査は必要になってきます。
45歳以上~65歳未満

呼吸時痛の割合は、4.1%と3番目に低下し、冠動脈硬化症と心疾患による痛みの割合が、5.4%と2番目に出現しています。そして、急性心筋梗塞2.8%、不整脈2.6%をたすと10.8%となり心疾患系の病気が上位に出現しています。
65歳以上~80歳未満

冠動脈疾患7.0%、不製脈3.9%、急性心筋梗塞3.5%、虚血性心疾患2.5%をたすと16.9%の心血管系の疾患で救急外来を受診していることがわかります。
80歳以上

冠動脈疾患7.8%、虚血性心疾患5.7%、急性心筋梗塞3.7%、不整脈2.1%、循環器疾患1.2%をたすと、20.5%と心血管性疾患割合がかなり増加しています。
胸部痛で救急外来を受診された患者さんにおいて、どの年代でも、良性と考えられる非特異的な胸部痛が半数程度占めています。
一方、緊急性を有する危険な胸部痛は、まずは心臓・大血管に起因する胸部痛を考えないといけませんが、年代別では、45歳未満では、心臓に起因する胸部痛の頻度は、1.8%(不整脈)と少ないことが示されています。この年代においては、心血管による疾患の可能性を除外するために、問診による現病歴、既往歴、家族歴の聴取が重要になってきます。生まれつき心臓疾患のある方、マルファン症候群などの結合組織病を有する場合などは、若年者でも心血管疾患による胸部痛発症を考慮する必要があるからです。
45歳以降の年代においては、心血管疾患による緊急性を有する重篤な胸部痛の割合が増加しています。特に80歳以上の場合、心血管疾患による胸部痛が全体のなかで20%以上にも上昇しています。 これらの年代においても問診による現病歴、既往歴、家族歴の確認が重要であるのはかわりません。 心臓の持病がある場合、生活習慣病がある場合などは、心血管疾患の可能性を強く考慮する必要があるからです。
参考文献:JAMA Intern Med. 2016 Jul 1;176(7):1029-32. doi: 10.1001/jamainternmed.2016.2498.
A National Study of the Prevalence of Life-Threatening Diagnoses in Patients With Chest Pain Renee Y Hsia , Zachariah Hale , Jeffrey A Tabas
補足: 緊急性を要する危険な胸部痛の鑑別について
胸部痛の表現について
胸が苦しい、胸が重たい、胸が焼けるような感じといった訴えも胸痛として考える必要があります。また首肩腕に対する放散痛(特に左方向に感じる場合)、背部痛、心窩部(みぞおちの部分)などの部位の痛みの有無についても注意が必要です。
発症様式・持続時間について
突然発症で30分以上継続する重篤な胸部痛や呼吸困難感、意識混濁を伴う症状は、緊急性がきわめて高い疾患の可能性を強く疑います。ペインクリニックに受診する以前に、早急に循環器内科(119番連絡⇒救急車 病院搬送でよいと思います)の受診を強くお勧めします。

表 発症様式・持続時間について:
診断と治療vol 113-no 12025(12-15)総論 胸痛をきたす疾患 陳文翰、園田信成、野出孝一 佐賀大学医学音陥環器内科 より記載された内容はそのまま転記
急性冠動脈症候群、大動脈解離、肺塞栓症、緊張性気胸、食道破裂、穿孔性消化性潰瘍は、特に生命にかかわる重篤な疾患(赤字)との上述の論文中で記載がありましたが、赤字では示していませんが、急性血栓塞栓症や心タンポナーデも緊急性が高いです。
この表の中で黒字の大文字で示した疾患はペインクリニック内科でもみる胸部痛疾患となります。
(黒字の大文字ではありませんが、当院では、骨転移における疼痛コントロールとして、通院できる方に対しての麻薬処方は、主治医の許可があれば可能です。)
参考文献
診断と治療vol 113-no 12025(12-15)総論 胸痛をきたす疾患 陳文翰、園田信成、野出孝一 佐賀大学医学音陥環器内科

急性の胸部痛は、危険な疾患が多く含まれています。特に心臓疾患や大血管は、時間が少し遅れるだけでも生死にかかわることとなる場合があります。急性の胸部痛が発生した場合は、まずは時間をおくことなく循環器内科の受診をお勧めします。
「症状が重い場合はためらわず救急車119番連絡です。」
胸痛でペインクリニックを来院された患者さんには、胸痛の性状、痛みの部位、皮膚症状、発症の状況、痛みの持続時間などを重視して診察しています。当院来院の患者さまで、上記疾患のみでなくとも緊急性が高いと判断した場合は、時間をおくことなく近隣の専門病院(超緊急の場合は救急搬送)を紹介します。