- 2026年6月1日
前胸部痛 肋軟骨炎について
いとうペインクリニックの伊藤です。胸の前方が痛くて心臓を調べてもらったが原因不明と言われて来院される患者さんがおられます。前胸部痛の際、考えないといけない疾患として肋軟骨炎があります。肋軟骨炎は前胸壁の肋骨と胸骨をつなぐ肋軟骨の炎症に関連している良性疾患とされていますが、症状としては、動きや触診(圧迫)によって悪化する局所的な胸痛です。胸部・肋骨X線や胸部CTなどの画像では異常なく、診断は重篤な疾患・肋骨骨折などの除外診断によって肋軟骨炎が診断されます。治療としては、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が主に用いられます。今回は、肋軟骨炎の話をしたいと思います。
肋軟骨炎
肋軟骨の接合部の炎症によってひき起こされます。目で見て、発赤や皮下出血が無いこと(外傷があっても程度が軽いことを示唆)を確認します。指で胸部の触診を行い、胸骨、肋軟骨、肋骨の接合部を確認していきます(下図〇〇部分)。

2024 Apr 20. Costochondritis Jessica A. Schumann, Tanuj Sood , John J. Parenteより抜粋一部改変
症状
深呼吸、咳、ストレッチなどの動きで悪化する胸部前方の限局する痛み
痛みの性状と強さの程度はいろいろあるようです。(鋭い痛みや鈍い痛みなど)
打撲直後なら,骨挫創や骨折を想起しますが、徐々に悪化する場合は、肋軟骨炎を含む炎症の存在が疑われます。
夜間などに体位変換で痛みが悪化します。
鑑別
肋軟骨炎は急性冠症候群、肺塞栓症、大動脈解離、肺炎、食道損傷、気胸、外傷に似ている可能性があり、これらはすべて除外する必要があります。肋軟骨炎の患者はバイタルサイン(呼吸・血圧・脈拍・体温・意識状態)が正常です。
筋骨格系の痛みを鑑別する方法として以下のような疼痛誘発方法があります。

実際には、上の誘発法ではなく、深呼吸後に、息を吐いてもらったり、咳をしてもらって疼痛部位に痛みが誘発される場合に肋軟骨炎を疑っています。
疫学
肋軟骨炎は主に40歳から50歳の成人に多く影響を受けるようですが、女性に多い傾向にあるようです。胸痛外来でみえた患者の約半数は、筋肉や骨格によるものが多いとされていますが、この中で肋軟骨炎の頻度は高い(4~50%)との記載があります。患者の症状は、ほとんどの場合、3~4週間程度で消退しますが、1年で自然消退するとの報告もあります。また、肋軟骨炎は、線維筋痛症と関連しているケースはごく少数との報告があります。
原因
十分に理解されていませんが、肋軟骨炎は上肢の激しい運動、咳、激しい運動の反復動作によって引き起こされることもあります。
投薬・処置
肋軟骨炎の治療
アセトアミノフェン、NSAIDsなどの鎮痛剤
痛み強い場合は、圧痛点にリドカイン(+ステロイド)注射を考慮します。
MS温シップ(カプサイシン)、ジクロフェナクジェルなども使用することがあります。
バストバンドは、痛みが強い場合はオプションとして勧めることもあります。

整形看護学 2025 vol.30 no.9 30-40 胸部・腰椎の装具 より抜粋
補足:肋骨骨折
好発部位は第4~10肋骨部位が多く、第1と2肋骨は短く、鎖骨に守られるように存在し、第11と12肋骨は前方が固定されておらず、外力の影響は受けづらく、骨折はおこりにくいと考えられます。骨折部位はカーブが最も大きな中腋下線部分(下図)が発生しやすく、圧痛のみならず、咳嗽や前胸部と背部に同時に力を入れて押すと骨折部位の圧痛を誘発できたりします。
外傷の場合は、皮下血腫などのチェックは大切ですが、ビビ程度の骨折の場合は、レントゲンでは、骨折判定がつかないことも多いです(超音波エコーが軽微な骨折診断に有効な時もあります)。解放骨折や肺に刺さっているような場合(緊張気胸の危険)、外傷性血胸やフレイルチェスト(複数の骨が折れて、息を吸うと胸の一部がへこみ、吐くと飛び出す“奇異運動)を起こしている場合などは、外科的処置が必要となりますが、軽度の骨折の場合はバストバンドなどで固定(2週間程度)し、骨がつくのを待つ(仮骨形成6週程度)保存療法が治療の中心となります。

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参考文献・資料
・Book In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2026 Jan. 2024 Apr 20. Costochondritis Jessica A. Schumann, Tanuj Sood , John J. Parente
・Arch Intern Med. 1994 Nov 14;154(21):2466-9. doi: 10.1001/archinte.154.21.2466.
Costochondritis. A prospective analysis in an emergency department setting E Disla , H R Rhim, A Reddy, Karten, A Taranta
・治療 Vol.107,No.12〈2025.11〉 57-61 外来でのピットフォール─ 後頭神経痛,肋軟骨炎─松下 明
・月刊薬事 59(4): 818-830, 2017. 第11回 絶対見逃したくない胸痛のOPQRST (後編)高橋良
・整形外科看護 30(9): 814-824, 2025 胸部・腰椎の装具吉井優平, 中田健史, 石黒幸治, 服部憲明

胸部の痛みはまずは危険な疾患の除外が大切ですが、多くは原因がよくわからない良性の胸痛(筋骨格系の痛み)でありその中でも肋軟骨炎の割合は多いとされています。今回は、肋軟骨炎についての話をさせていただきました。