• 2026年5月27日

リンパの流れと用手的リンパドレナージ(MLD)について

いとうペインクリニックの院長の伊藤です。当院では2026年6月より、用手的リンパドレナージ(manual lymph drainage ;以下、MLD)のテクニックを用いたマッサージを自由診療で行うことになりましたので、ペインクリニック内科とは直接関係ありませんが、今回は、リンパの流れとリンパ浮腫複合的治療の1手技である用手的リンパドレナージ(MLD)についての話をしたいと思います。

補足:リンパ浮腫複合的治療:用手的リンパドレナージ(MLD)のみでなく、スキンケア(生活習慣などの教育)、圧迫療法(弾性着衣・多層包帯法などを含む)、圧迫下の運動療法を組み合わせた複合的理学療法です。

はじめに リンパとは?

リンパ系は①リンパ液、②リンパ管、③リンパ球と④リンパ節からな構成されています。組織の間隙(細胞と細胞の隙間)に存在する間質液がリンパ管に吸収され、リンパ管内を流れる液体が狭義のリンパとされていますが、リンパは主に間質液の回収による体液量の調節と物質の輸送および免疫反応の中枢としての役割を果たしています。

リンパ浮腫と浮腫の違いについて

むくむ(浮腫)疾患はいくつかありますが、うっ血性心不全などでむくむ場合は、リンパ浮腫ではありません。浮腫は、水分が細胞間隙に過剰に貯留した状態のものです。リンパ浮腫は、水分とたんぱくが過剰に細胞間隙に貯留した状態をさします。

(a)正常状態:組織液(間質液)の80~90%は組織間隙から血管に戻り、10~20%は毛細リンパ管へと再吸収される。

(b)浮腫:不要になった水が回収されず、組織間隙にたまっている状態。

(c)リンパ浮腫:組織内で不要になったたんぱくと水がリンパ管内に回収されず、高たんぱく性の体液が組織間隙にたまっている状態。

図 2024年版 リンパ浮腫 診療ガイドライン 一般社団法人 日本リンパ浮腫学会 編より抜粋

リンパ浮腫の原因で最も日本で多いのは、腋窩郭清・術後照射・がん治療などに伴う続発性のリンパ浮腫が最も多いと2024年版 リンパ浮腫 診療ガイドラインに記載されています。

リンパ管の解剖とリンパの流れについて

(図1)リンパ管の構造
図2 リンパ節 
図3リンパの流れ

                    

リンパ盲端より間質液(細胞と細胞の間にある液体)が吸収され(図1)、集合リンパ管へと集められたリンパ液は、輸入リンパ管より、リンパ節(図2)というフィルターを通ります。その後、輸出リンパ管をでたリンパ液は頚部リンパ節、腋窩リンパ節、鼠径リンパ節を経て体幹に集積したリンパ液は静脈へと導かれます(図3)。

補足:すべてのリンパ管は静脈への合流の前に必ず一つ以上のリンパ節を通過します。リンパ節は,リンパ液の流れをせき止めて、リンパを濾過し、食細胞に取り込まれた微生物や異物などの情報を基に,特異的な抗体を産生する免疫組織でもあります。

図1・3 Jpn J Rehabil Med 2025;62:882-886 特集 リンパ浮腫診療 リンパ浮腫診療に役立つ基礎知識─解剖・生理・病態─Useful Knowledge for Lymphedema Treatment:Anatomy, Physiology, Pathophysiology 松原 忍 より抜粋一部改変

図2 小児外科Vol. 53 No. 8,2021‒8 873―880 特集 超音波検査と小児外科:ここまでみえる,ここまでわかる リンパ節 河 野 達 夫 より抜粋

リンパの流れのメカニズムについて

組織中のリンパ盲端は、同部を構成するリンパ管内皮細胞は互いに接着しておらず重なりあって管腔を形成しており、リンパ管内皮細胞に繋留フィラメントと呼ばれる線維が付着して筋膜など周囲組織に付着しています。

間質液が増加したりや周囲組織の動きにより繋留フィラメントが筋膜側に引っ張られ、リンパ管内皮細胞の重なりに隙間が生じ、水分や血管内に流入できないようなタンパク質などの大きな物質が毛細リンパ管内に流入します。流入により間質の圧が低下すると、繋留フィラメントに緩みが生じてリンパ管内皮細胞同士が重なり合い管腔構造に戻って、リンパの流れが発生します。(下図)

用手的リンパドレナージ(MLD)において、皮膚をずらす程度の軽い力でもリンパが流れるとされる由縁です。但し、リンパの流れに沿ってドレナージすることが大切です。

図4 間質液がリンパ管内へ流れる仕組み

図4 Jpn J Rehabil Med 2025;62:882-886 特集 リンパ浮腫診療 リンパ浮腫診療に役立つ基礎知識─解剖・生理・病態─Useful Knowledge for Lymphedema Treatment:Anatomy, Physiology, Pathophysiology 松原 忍 より抜粋一部改変

能動的リンパ輸送

より深い部分の存在する集合リンパ管には平滑筋が存在し,内膜の襞が弁の構造を呈しています。弁と弁の間の区域はリンパ管文節(lymphangion)と名付けられ,リンパ管の自発的収縮運動の1 単位と考えられ下肢リンパ管では毎分2〜6回の収縮運動が起こり、リンパ液の流れが調節されています。

図5 集合リンパ管の平滑筋構造

図5 Jpn J Rehabil Med 2025;62:882-886 特集 リンパ浮腫診療 リンパ浮腫診療に役立つ基礎知識─解剖・生理・病態─Useful Knowledge for Lymphedema Treatment:Anatomy, Physiology, Pathophysiology 松原 忍 より抜粋一部改変

受動的リンパ輸送

リンパ液は、筋肉の動きによって受動的に流れの促進が引き起こされます。

筋肉の収縮など外部からの圧迫が,弁の働きとともに一方向性のリンパの流れを引き起こす輸送です(下図 筋ポンプ作用) 。圧迫下の運動療法では圧迫用具と筋肉の間にある組織つまり間質やリンパ管内の圧が一時的に上昇するので,リンパ流の促進が起こります。

医療的リンパドレナージにおいては、圧迫療法と圧迫下の運動療法がこれにあたると考えます。

図6 筋ポンプ作用

図6 Jpn J Rehabil Med 2025;62:882-886 特集 リンパ浮腫診療 リンパ浮腫診療に役立つ基礎知識─解剖・生理・病態─Useful Knowledge for Lymphedema Treatment:Anatomy, Physiology, Pathophysiology 松原 忍 より抜粋一部改変

用手的リンパドレナージ(MLD)とは?

 「ドレナージ」とは、「排液」を意味しますが、「リンパドレナージ」とは,不要に貯留したリンパ液を排液するとあります。すなわちリンパの流れを本来の正しい方向に誘導し、排液するマッサージであるとされています。

リンパドレナージは20世紀に欧州で美容面から発達してきたらしいですが、我が国では美容的リンパドレナージとMLDとが混在して取り扱われている傾向があります。医師としては、リンパ浮腫患者が、リンパ浮腫治療の一環として民間の美容的なリンパドレナージを受けることは、推奨はできません。

美容的リンパドレナージとリンパ浮腫複合的治療の1手技であるMLDは別と考えてください。

ただし、美容的には,リンパドレナージにより身体の老廃物や不要な水分の貯留が解消され、浮腫が軽減する効果があり、健常者に対して有効であるとされています。

何らかの原因によりリンパ液の通常の経路での排液に障害が生じてリンパ浮腫に至った場合に、リンパ液を通常とは異なる別の排液路に適切に導くことで浮腫の改善をはかるものがリンパ浮腫複合的治療とされています。美容用と異なり、国際リンパ学会でリンパ浮腫の治療法として、MLD以外の複合的理学療法(スキンケア、圧迫療法(弾性着衣・多層包帯法などを含む)、圧迫下の運動療法)が、医療用として実施されます。MLDは、医療従事者が医学的トレーニングを積み,セラピストとしての資格を取得して行われています(有資格者のみが実施可能)。

ただし、いったんリンパ浮腫になると、完治は非常に困難であり、日々の患者の適切なセルフケアが大切であるとされています。

用手的リンパドレナージ(manual lymph drainage ;MLD)の資格者は、看護師さんが多いと思いますが、当院ではあん摩・マッサージ指圧師の国家資格を有する施術者が、MLDの資格を有しており、当院ではMLDのテクニックを用いたマッサージを提供しています。

注意:国際リンパ学会でリンパ浮腫の治療法としてのMLD以外の複合的理学療法(スキンケア(生活習慣などの教育)、圧迫療法(弾性着衣・多層包帯法などを含む)、圧迫下の運動療法)については当院では行っていません。

MLDの基本手技

MLDは、上述のリンパドレナージのメカニズムで述べたように、手で患者の皮膚表面をストレッチすることにより、皮下組織の浅い部分のリンパ管に伸展刺激を加え、リンパ液を流していく手技療法です。特殊な器械や薬剤は用いません、両手のみでリンパ液の流れを促進していきます。MLDにより健常な部位のリンパ管の自動運動が充進し、貯留したリンパ液が健常な部位へと「吸引効果」によって移動し、貯留したリンパ液を,適切なリンパ管を介して体幹に誘導し、最終的には静脈内に流していくことを目的としています。

MLDは,圧迫と弛緩をゆっくりと一定のリズムで行う4).圧迫と弛緩は,能動的と受動的とも言い換えることができる.圧迫期では、リンパ液を誘導する方向に少しためこむような感じで徐々に圧を加えてリンパ液を送る。弛緩期では引き続き密着を放さずに徐々にかけていた圧を抜いて初めの手の位置に戻る。最も重要な点は、手掌を皮膚面に密着させた状態で、目的の方向へ向かって皮膚を伸展させることです。皮膚の表面上をすべらせずに常に皮膚と手掌の密着を保ったままドレナージを行うことを意識します。

 (図1)具体的には4つの基本手技があります。

(1)ステーショナリーサークル(静止クライス*):指または手掌をそろえて皮膚上に平らに置き,柔らかく円を描くように行う.身体のあらゆる部位に用いることができ,応用範囲が広く,簡便なため患者のセルフマッサージにも有効です。

(2)パンプ(ポンプ*):母指と他のそろえた4本の指との間をくの字に開いて,手関節を軸として組み上げるように行う.主に四肢や体側などに用います。

(3)ロータリー(ドレー*):母指と他のそろえた4本の指との間を直角に開いて,母指を内側に回転させ,4本の指を前方にスライドさせていく.主に体幹で面積が広い胸部、背部、腹部、殿部などに用います。

(4)スクープ(シェップ*):母指の関節を中心として回転を加えながらすくいあげる,すなわち,螺旋状の動きを行う.これはポンプ手技の応用であり,主に四肢の末梢部に用います。

(図2)線維症への手技

 

これらの基本手技のほかに,特殊なものとして線維症への手技があります。リンパうっ滞性線維症や放射線性線維症などの皮膚の線維化や硬化を緩和し改善させるために用いられます。リンパ浮腫2期以上の治療では必須の手技とされています。

MLDの効能について

リンパ液生成の促進・リンパ管自動収縮能(弁膜間運動)の活性化・リンパ管輸送能力(リンパ時間用量)の改善・増殖した結合組織(リンパうっ滞繊維症)の改善などが考えられています。

しかし、MLDの科学的な根拠はまだまだ乏しいです。

リンパ浮腫に対する治療方法に対しての質の高い研究報告は、MLDに限らず乏しい現状があります。2024年度版リンパ浮腫診療ガイドラインでは,MLD単独での続発性リンパ浮腫に対しての標準治療としては、上肢・下肢ともにグレードC1(行うことを考慮してもよいが、十分な科学的根拠はない)とされています。一方、発症予防に関しては、上肢においては、グレードC2(科学的根拠なし推奨できない)、下肢においては、報告例も少なく、グレードD1(実施しないことを推奨)と続発性リンパ浮腫の予防効果に対する科学的な根拠は確立していません。続発性リンパ浮腫に対しては、MLD単独で行うことに対しての効果は不十分であることを示していると思われます。

以下の症状がある場合はMLD施術をお断りしています。

・急性感染症

・施術部位に皮膚の炎症所見がある場合

・閉塞性動脈疾患のある方で施術部位に疼痛がある場合 

・重篤な心臓疾患のある方

(例:重篤なうっ血液心不全などにより日常生活もままならないような状態の悪い方)

疾患によっては、主治医にマッサージを受ける許可の確認をお願いする場合があります。

参考文献

1) Executive Committee of the International Societyof Lymphology:The diagnosis and treatment of peripheral lymphedema, 2023 Consensus Document of the International Society of Lymphology. Lymphology 2023:56;133-151

2)Jpn J Rehabil Med 2025;62:882-886 特集 リンパ浮腫診療 リンパ浮腫診療に役立つ基礎知識─解剖・生理・病態─Useful Knowledge for Lymphedema Treatment:Anatomy, Physiology, Pathophysiology 松原 忍

3)2024年版 リンパ浮腫 診療ガイドライン 一般社団法人 日本リンパ浮腫学会 編

4)MB Med Reha No.214:32-38,2017特集/リンパ浮腫コントロール

リンパドレナージ 小林範子 藤野敬史

当院では用手的リンパドレナージ(MLD)のテクニックを用いた、マッサージを2026年6月より提供します。(自由診療)

当院のMLD実施者(MLD有資格者)は、あん摩・マッサージ指圧師の国家資格を有しています(保険診療として医師の診察の下、必要と判断されれば、保険診療にて施術が行える資格)。あん摩・マッサージ指圧師の対象疾患としては、「慢性的な痛みやしびれ」に対する施術が対象となります。首や肩の痛み・腰痛などの慢性の運動器の痛み・神経痛、関節リウマチによる痛みなどが対象になります。指圧の治療方法は、親指、手のひら、肘などを使ってツボや筋肉に垂直に圧をかけ、一定時間じんわり押して、ふっと抜くリズムを繰り返す、経絡やツボの考え方を用いて、全身のバランスを整えることが基本です。MLDは手技が違いますのでご了承ください。

体のだるさやむくみ、疼痛に対してお困りの方、一度、MLDのテクニックをとりいれたマッサージを試していただければと考えています。当院では2026年6月より、自由診療にてリンパマッサージを行うことになりましたので、今回はリンパドレナージの話をしました。料金・診察手順・施術などの詳細については、ホームページを参考にしてください。

注意:当院では、医学的なリンパ浮腫治療を目的とした治療は行っておりません。

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