• 2026年6月11日

主な脊椎変性疾患と治療について

いとうペインクリニック院長の伊藤です。今回は、主な脊椎の変性による疾患と治療法についての話をします。ペインクリニック内科は、痛みの緩和を中心に治療を行いますが、当院では、内服治療のみでなく、外科用Cアーム(透視)や超音波エコーを用いたブロック治療を積極的に行っています。以下に、主な脊椎変性疾患と当院での治療方針についてご説明します。

はじめに 脊椎は頸椎,胸椎,腰椎,仙椎,尾骨からなります。

図1整形外科看護2022 vol.27 no.522-24 筒本健太郎、南谷要子、中野恵介より抜粋

脊髄は、脊椎の椎体と椎間関節によって形成された脊柱管という管状の構造物の中に外壁を硬膜、くも膜、軟膜の3層の膜で包まれた状態で脳脊髄液中に存在しています。

図2整形外科看護2026 vol.31 no.4 49-51 筒本健太郎 より抜粋

椎体と椎体の間は椎間板によって,脊椎の後方部分は椎間関節によって連結されています。 また靭帯として、椎体の前後には前縦靭帯(腹側)と後縦靭帯(背側)が縦走しています。 脊髄の後方(背中側)で椎間関節前面に黄色靭帯が存在しています。

図3整形外科看護2025 vol.30 13-14 長谷川裕一 より抜粋一部改変

椎体や椎間関節、椎間板、後縦靭帯や黄色靭帯の損傷、加齢変化、靭帯の骨化などによって多様な脊椎変性疾患が生じます。神経症状は、脊柱管の中にある脊髄や神経根(脊髄から最初に分岐する末梢神経)などが圧迫され生じます。

以下に述べるのは代表的な脊椎変性疾患です。

変形性脊椎症 老化によって椎間板や椎間関節が変性し,脊椎が変形していく疾患の総称です。頸椎では変形性頸椎症、胸椎では変形性胸椎症、腰椎では変形性腰椎症(図1)とよばれます。疼痛や神経の圧迫によって多彩な症状が生じます。腰椎の変性で不安定となった状態から、変性が進むと、椎間の不安定さがなくなり再安定期となります。

図1 MB Orthopaedics 32(5): 8-13, 2019. 変形性腰椎症 寺島嘉紀, 山下敏彦より抜粋一部変更

椎間板ヘルニア 椎間板が後方に突出して,神経を圧迫ししびれや痛みを生じる疾患です。腰椎部に多く,腰椎椎間板ヘルニア(図2)とよばれます。坐骨神経痛を起こす代表的な疾患です。また、頸椎部に生じた頸椎椎間板ヘルニアは発生した場所によって、脊髄症(頸髄症)や神経根症状といった異なった症状を示します。

図2MRI:T2矢状断 MRI:T2横断 図3 椎間板ヘルニアの分類 図2は、腰椎5番目(L5)/仙椎1番目(S1)の間の椎間板ヘルニアです。横断像より、左S1神経根の圧迫が認められます。 椎間板ヘルニアの分類(図3)では、膨隆型や突出型に対し後縦靭帯を突き破ったような脱出型や遊離脱出型の方が、ヘルニアの退縮割合は高くなります。

図2 整形外科看護 2021 vol.26 no.5 474―479 腰椎椎間板ヘルニア 稲毛一秀 より抜粋一部変更 図3 日本内科学会雑誌105巻11号2210-2214 腰椎椎間板ヘルニア 診療ガイドライン 改訂第2版 宮本 雅史,中嶋 隆夫 より抜粋

変性すべり症 隣接する椎骨が前後にずれた状態を変性すべり症とよび中高年の女性に多いです(図4)。脊柱管の狭窄を生じる変性すべり症と異なり、腰椎の関節突起間部の骨の断裂が生じた状態(分離症)に、椎骨の前後のすべりが生じたものを、腰椎分離すべり症とよび、この場合、脊柱管は開大します。

腰椎変性すべり症

図4MRI:T2矢状断 MRI:T2横断 図4 臨床画像 Vol.29, No.4増刊号, 2013 48-49脊椎すべり症:分離症か? 変性か? 藤井裕之,木村有喜男,杉本英治より抜粋

後縦靭帯骨化症 後縦靭帯が次第に骨化していく原因不明の疾患です。(図5)後縦靭帯は脊髄の前にあるため、骨化が進むと脊髄を圧迫して神経症状(麻痺)を生じます。黄色靭帯骨化症(脊髄後方の黄色靭帯の骨化)や強直性脊椎骨増殖症など脊椎の靭帯骨化症を合併することが多いとされています。

図5単純X線像 CT矢状断像 図6 後縦靭帯骨化症の分類

図5、図6 Journal of Clinical Rehabilitation Vol.32 No.13 2023. 11 1228-1234(臨時刊行)脊椎脊髄病に必須の画像診断(脊柱靭帯骨化性病変を中心に)島袋孝尚、西田康太朗 より抜粋一部変更

単純X線像では、椎体後面に後縦靭帯骨化を認めますが、骨化形態は不明瞭です(図5単純X線像)。CT矢状断像において、C3~C7にかけて分節型の後縦靭帯骨化症を認めます(図5CT矢状断像、分類は図6を参照)。

脊柱管狭窄症 脊椎症,脊椎すべり症などが原因になって脊柱管が狭くなり,神経が圧迫されるために神経症状を生じたものを脊柱管狭窄症(図7)とよびます。こうした後天性のもの以外に,先天性あるいは発育性の脊柱管狭窄もあります。

図7 MRI:矢状断 MRI:横断 図7 Magn Reson Imaging Clin N Am. 2016 Aug;24(3):523-39. doi: 10.1016/j.mric.2016.04.009.Neuroimaging of Spinal Canal Stenosis Peter Cowley より抜粋一部変更

腰部脊柱管狭窄症ガイドライン2021年改訂版では、脊柱管狭窄症の3つの型(馬尾型・神経根型・混合型)が示されています。

引用文献;J. Nihon Univ. Med. Ass 2012 71(2) 116-122 腰部脊柱管狭窄症の診断と治療 大島正史 徳橋泰明 一部改変 まずは馬尾型ですが、硬膜(脊髄の外側を覆っている膜)が全周性に圧迫されると、下肢のしびれや痛み、臀部痛に加えて、会陰部の違和感を訴えるようになります。 一方、神経根型は、単一の神経が圧迫によって障害されることで、障害された神経根支配の領域である下肢のしびれや痛み、臀部痛を発症します。 混合型は程度の差こそあれ馬尾型・神経根型の両方の症状が出現します。 補足: 上の図は黄色靭帯の肥厚のみで脊柱管狭窄症を説明していますが、骨変形、変性すべり症や変性椎間板の後方突出などにより脊柱管は狭窄します。

脊椎変性疾患の部位による症状の違いについて(症状は多様です)

頸椎部 頸椎部では,脊髄が慢性的に圧迫されると四肢の麻痺や膀胱直腸障害を生じ,頸髄症とよばれます。頸髄症は、初期には手の巧緻機能の低下(ボタンが掛けづらい)に始まり、症状が進むと階段の下りが困難になるなどの下肢症状が出現します。 外傷などによる脊髄の急性圧迫症状は、脊髄損傷とよばれ区別されています。神経根が圧迫されると、その神経の支配を受けている上肢の筋の疼痛や,知覚低下を生じます。圧迫が強い場合は、筋力の低下を引き起こすこともあります。

胸椎部 胸椎部では脊髄が慢性的に圧迫されると下肢の麻痺(対麻痺)や膀胱直腸障害が起きる場合があります(胸髄症)。圧迫部位が神経根の場合は、肋骨に沿って背部より腹部にかけての左右一方のしびれや疼痛をひきおこします(胸部脊髄神経根症)。

腰椎部 腰椎部では馬尾部分が圧迫されると下肢の麻痺や膀胱直腸障害が起きる場合があります。神経根の障害では支配される神経痛,知覚低下が生じますが、症状が強い場合は、筋の筋力低下を引き起こす場合もあります。下位腰椎の障害による神経痛は坐骨神経痛とよばれます。また腰椎部での馬尾や神経根の圧迫は腰部脊柱管狭窄症に典型的にみられる間欠跛行(歩行すると、短時間で痛みやしびれが出現し、座って休まないと回復しない状態)を起こします。

治療方法 診断の後、初めに保存療法を行います。

内服薬 神経症状に対しては、α2δリガンド(カルシウムチャネル調節薬:リリカ®やタリージェ®)や抗うつ剤(SNRIや三環系抗うつ剤)の使用を考慮します。非ステロイド性抗炎症薬の内服や外用薬、血流をよくするための、経口プロスタグランジンE1誘導体製剤(リマプロスト®)や漢方薬も処方します。疼痛が強い場合は、ノルスパンテープ®のような、麻薬に近い強い薬を使用する場合もあります。薬ではありませんが、慢性期には温熱療法、急性期には、コルセットの使用も考慮します。

ブロック注射 頸部に対する神経根ブロックや頸胸部(Th1/2)硬膜外ブロック、胸部に対する神経根ブロックや胸腰移行部での胸部硬膜外ブロック、腰部に対する神経根ブロックや硬膜外ブロックなどを実施します。頸部の血流をよくするための、星状神経節ブロックなども実施します。

保存的に経過観察を行うも改善が乏しい場合 手術を検討します。また、慢性的な圧迫で麻痺が出てきた場合、下肢麻痺や膀胱直腸障害が生じてきた場合は、手術による神経の除圧を考慮します。椎間板ヘルニアによる急性の膀胱直腸障害が出現した場合も、緊急に除圧手術が必要となります(近隣の外科手術可能な病院を紹介します)。

ペインクリニックでは、薬物療法や専門的な神経ブロック注射を駆使して「痛みの悪循環」を効果的に断ち切り、症状の改善を図ります。

長引く痛みやしびれは、身体的だけでなく精神的にも大きな負担となります。我慢せず、ぜひ一度、痛みの専門家であるペインクリニックにご相談ください。適切な治療で痛みから解放され、快適な毎日を取り戻すためのお手伝いをします。

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