• 2025年11月20日
  • 2025年11月25日

腰痛の原因?MRI画像診断 Modic(モディック)変化について

MRI画像診断は椎間板の変性や脱出、脊髄や神経根の圧迫の場所の特定、炎症疾患の有無などが観察でき、脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニア、圧迫骨折などの整形疾患の診断に優れた検査です。(ちなみにCT検査は、レントゲンでははっきりしないような骨の微細な変化の観察に優れています。)

こんにちは、いとうペインクリニック院長の伊藤です。今回は、腰痛の原因を探るために用いられるMRI検査において、参考にしているModic(モディック)変化について説明します。

1987年にRoosらが椎体の骨髄信号変化に関して 初めて報告し,1988年にはModicらにより報告され,3つの分類(Modicタイプ 1、Modic タイプ 2、Modic タイプ 3)が作成されました。この中でModicタイプ 1が特に腰痛に関連があると考えられています。

腰痛には特異的腰痛,非特異的腰痛があります。非特異的腰痛とは、要するに理学所見や,簡易な画像検査では特定できない原因不明の腰痛であると理解されています。その非特異的腰痛に含まれる疾患としてModic変化があります。身体所見として、疼痛部位近辺の背骨のでっぱり部分(棘突起)の圧痛,前屈による疾痛の誘発などが認められるが、神経所見は一般には認めない腰痛と考えられています。


MRI画像においてのModic変化の見方について

Modic変化は、MRI画像において 腰骨(腰椎)の信号強度(白黒)の変化をT1強調画像(T1)、T2強調画像(T2)という2つの異なった方法で撮られた画像を用いて評価しています。

補足:T1・T2強調画像について

MRI画像においては、T1 強調画像は、 脂肪や早期の出血は、画像上では白く描出され、水などの液体成分は、低信号強度で黒く描出されます。T2 強調画像では、病変が比較的明瞭にみてとれますが、T2強調画像では、脳脊髄液、液体病変(腫瘍、炎症、浮腫など)が白く描出されます。

MRIでModic変化を診る時には、特に椎体終板と言われる椎間板に接した部分を中心に腰椎のT1・T2画像の信号(黒~白)の変化を観察しています。(下図参照)

Modic変化は以下の3つに分類されます。 

椎体終板の変化Modic 1Modic 2Modic 3
T1強調画像黒い画像白い画像黒い画像
T2強調画像白い画像等色~白い画像黒い画像
組織病理浮腫 炎症脂肪変性線維化・骨化

実際のMRI画像でのModic変化の見方について

Ann Rheum Dis 2015;74:1488–1494. doi:10.1136/annrheumdis-2015-207317 From Modic 1 vertebral-endplate subchondral bone signal changes detected by MRI to the concept of‘active discopathy Nguyen C, et al.より抜粋一部改変

上の図はAもBも腰椎部分の矢状断(縦切り画像)MRI画像を表しています。5番目の腰椎と仙骨部分(□部分)に注目すると、AではT1低信号T2高信号でModicタイプ1型、BではT1高信号T2高信号でModicタイプ2型となります。Aの所見となった場合は、特に腰痛の原因として可能性を考慮します。


痛みの原因

Modicタイプ 1は,特に腰痛と関連しているとされていますが、その原因としては腰椎(腰骨)への機械的なストレスや椎間板との隣接部分の不安定性が関与しているといわれています。

参考文献)Review Ann Rheum Dis. 2015 Aug;74(8):1488-94. doi: 10.1136/annrheumdis-2015-207317. Epub 2015 May 14.From Modic 1 vertebral-endplate subchondral bone signal changes detected by MRI to the concept of ‘active discopathy’ Christelle Nguyen, Serge Poiraudeau, François Rannou  図は文献より抜粋一部改変

S OhtoriらはModicタイプ 1タイプ2患者の椎体終板(椎間板と接する部分)の組織について調べ、末梢神経線維と腫瘍壊死因子α(炎症性サイトカイン)がModic変化のない患者に対し多いことを報告しています。このことはModicタイプ 1とタイプ2の患者において椎体終板に炎症が生じていることを示唆し,腰痛との関連を裏づけると報告しています(下図)。

参考文献)Spine (Phila Pa 1976). 2006 Apr 20;31(9):1026-31. doi: 10.1097/01.brs.0000215027.87102.7c.

Tumor necrosis factor-immunoreactive cells and PGP 9.5-immunoreactive nerve fibers in vertebral endplates of patients with discogenic low back Pain and Modic Type 1 or Type 2 changes on MRI Seiji Ohtori , Gen Inoue, Toshinori Ito, Takana Koshi, Tomoyuki Ozawa, Hideo Doya, Tomoko Saito, Hideshige Moriya, Kazuhisa Takahashi   図は抜粋一部改変


Modicタイプに特徴的な椎間板内の内視鏡所見

Modicタイプ1では椎間板の発赤,椎間板・椎体終板からの出血や椎間板内に滑膜様組織を認めます。下の所見では、Modicタイプ1では椎間板や終板(椎体の椎間板に接する部位)に損傷が生じ、正常では存在しない血管が椎間板内にまで入り込んでいます。正常では無血管の椎間板内に血管新生や神経線維が増生し,それに伴い疾痛が出現するとの報告もあります。Modicタイプ2はModicタイプ1と比較し椎間板 の発赤や出血、終板からの出血が少ないとの報告もあります。(下写真)

Modicタイプ1とModicタイプ2の椎間板内の内視鏡画像

Aでは、椎間板内に発赤(血管新生)が認められています。Bは、Aと比較し発赤がほとんど認められません。

参考文献)

臨床スポーツ医学:Vol.40, No.10(2023-10)Modic Type 1変化の痛みの可視化 小川貴大

Radiology. 1988 Jan;166(1 Pt 1):193-9. doi: 10.1148/radiology.166.1.3336678.Degenerative disk disease: assessment of changes in vertebral body marrow with MR imaging M T Modic, P M Steinberg, J S Ross, T J Masaryk, J R Carter


Modic変化と腰痛の関連について

略語について:general:一般の人(腰痛関係なし) LBP:腰痛 cLBP:慢性腰痛 Sciatica:坐骨神経痛 Radiculalgia:下肢神経根症状  Asymptomatic:無症状 Before  arthrodesis:腰椎固定術前のMRI画像 

Consecutive MRI:体系的に集められたMRIデータを分析した結果

表)Ann Rheum Dis 2015;74:1488–1494. doi:10.1136/annrheumdis-2015-207317 From Modic 1 vertebral-endplate subchondral bone signal changes detected by MRI to the concept of‘active discopathy Nguyen C, et al. 抜粋一部改変

上の表の結果をみると、腰痛患者において、Modic タイプ2(上の表の□部分)であっても腰下肢痛がかなり認められています。Modic タイプ3は腰痛患者では少ないことがみてとれます。Modic タイプだけで腰痛原因として決定することはできません。しかし、Modicタイプ1の変化は、特に、圧迫骨折の急性期や化膿性脊椎炎などでも認められる変化であり、診療においては重要な情報です。

上の表で示されている()では、21歳の一般の若者558人はModic変化がほとんど認められなかったとのことですが、この論文では21歳のフィンランドの若年成人のほぼ半数が少なくとも1つの変性椎間板を持ち、4分の1が椎間板の膨隆を抱えていました。しかし、Modic変化は比較的まれでした。

表から40歳(→)では一般の人でもModic変化がかなりの割合で認められるようになっています。加齢による椎体と椎間板間の不安定性が、Modic変化の原因の1つとして示唆される結果だと思っています。

参考文献)Spine (Phila Pa 1976). 2009 Jul 15;34(16):1716-21. doi: 10.1097/BRS.0b013e3181ac5fec.Prevalence of degenerative imaging findings in lumbar magnetic resonance imaging among young adultsJani Takatalo  Jaro Karppinen, Jaakko Niinimäki, SimoTaimela, Simo Näyhä, Marjo-Riitta Järvelin, Eero Kyllönen, Osmo Tervonen


当院での治療について

Modicタイプ1は腰痛と関連が報告されており、多くの意見にもあるように、Modic変化はタイプ1からタイプ2そしてタイプ3へ変化する過程において痛みが沈静化する傾向にあると考えます。Modic変化がある場合は、タイプ3に導くことが治療となると考えますが、薬物療法やブロックによる治療鎮痛と並行して運動療法(インナーマッスルの強化)が重要であると考えています。椎間板に対して行う椎間板ブロックやPRF(高周波パルス療法)も有効かもしれません。しかし、椎間板は本来血流の乏しい部位であり安易な椎間板へのブロック治療は感染やヘルニアの急速な悪化などの危険から脊椎外科専門医の在籍する手術可能な施設での実施が賢明であると考えます(化膿性椎間板炎になると数カ月の入院治療が必要となります)。当院では内服治療と椎間板周囲への鎮痛薬投与(ブロック)加療を中心に腰痛治療を行っています。高齢で骨が脆弱な場合は、骨を強化するために骨粗鬆症治療薬も実施しています。


腰痛でお悩みなら、一度、ペインクリニックにご相談ください

腰の痛みは、つらい時期が続いたり、生活の質(QOL)を大きく低下させる可能性のある病気です。「年のせいだと諦めていた」という方も、痛みの専門家であるペインクリニックに一度ご相談ください。当院は整形外科の診療も行っており、丁寧な診断と、神経ブロック注射や消炎鎮痛リハビリテーションを組み合わせたオーダーメイドの治療で、あなたの痛みの軽減と快適な毎日を取り戻すためのお手伝いをさせていただきます。原因がよくわからず、治療に難渋する腰痛(非特異的腰痛)も多くありますが、誠意を持って対応させていただきます。

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