• 2025年10月8日

【要注意】帯状疱疹の激痛は「骨折より痛い」— 著名人の体験に学ぶ、後遺症(帯状疱疹後神経痛)を防ぐ「72時間の壁?」と専門治療について

近頃、私のクリニックにも、帯状疱疹(たいじょうほうしん/急性後根神経節炎)のつらい症状を訴えて来院される方が増えています。

「まさか自分が」「ただの疲れだと思った」と、初期症状を見逃してしまうケースも少なくありません。しかし、この病気は放置すると、芸能人の方々も苦しんでいるような深刻な後遺症につながるリスクがあるため、早期の対応が必要となります。

今回は、多くの方が経験された帯状疱疹の激痛の原因と、後遺症である帯状疱疹後神経痛(PHN)発生のリスクを下げるための治療について解説します。


1. 芸能人も体験した「耐え難い激痛」と合併症の怖さ

帯状疱疹は、子どもの頃にかかった水ぼうそう(水痘・帯状疱疹ウイルス:VZV)が、体内の後根神経節に潜伏し続け、免疫力の低下(細胞性免疫の低下)をきっかけに再活性化することで発症します。

N Engl J Med. 2007 Mar 29;356(13):1338-43. doi: 10.1056/NEJMct066061.Varicella-zoster vaccine for the prevention of herpes zoster David W Kimberlin Richard J Whitleyより抜粋 改変

壮絶な痛みの実態

この病気の最大の特徴は、何と言ってもその激しい痛みです。
タレントの北斗晶さんは、帯状疱疹を経験し、「首の骨まで折っていますし、肋骨が折れるのが日常茶飯事だった。それよりも痛い」と、痛みが激烈であったことを語っています。また、ハイヒール・モモコさんも「さまざまなケガをしてきたけど、これが一番痛い。痛すぎて気を失わへんかなと思うくらい」と語られています。

痛みの原因は、ウイルスによって神経そのものに炎症と損傷が起きるためです。発疹が出る前の初期段階では、刺すような、ピリピリ・チクチクとした痛みが特徴で、虫刺されや筋肉痛などと誤認されやすい点に注意が必要です。

深刻な神経合併症のリスク

帯状疱疹は、神経に沿って赤い斑点と水ぶくれが帯状に生じる病気ですが、発症部位によっては深刻な合併症を引き起こします。

視力障害・失明(眼部帯状疱疹)

アナウンサーの笠井信輔さんは、帯状疱疹の悪化によりウイルスが眼瞼部分に悪影響を与え、右目が開かなくなったことが報じられましたが、紅斑や水疱が顔や目に出た場合、視力障害や失明、難聴や顔面神経麻痺など、深刻な後遺症につながる危険性があります。ハッチンソン徴候と言って下の写真のように鼻先にまで水泡ができた場合は注意が必要です。結膜が赤くなった場合(充血)は要注意です。

Am J Med. 2017 Jan;130(1):21-26. doi: 10.1016/j.amjmed.2016.08.039. Epub 2016 Sep 17.Herpes Zoster Ophthalmicus: A Review for the Internist Ivan Vrcek Eileen Choudhury Vikram Durairaj より抜粋引用

ラムゼイ・ハント症候群

笠井さんは、帯状疱疹が右半身に出た影響で、舌の右半分に味覚障害が出たとも報告しています。         

     

耳の水疱がある場合は、難聴や顔面神経麻痺や味覚障害難聴などの危険があります。上の写真は左顔面のラムゼイ・ハント症候群の症状を示しています。     

J Dtsch Dermatol Ges. 2012 Apr;10(4):238-44. doi: 10.1111/j.1610-0387.2012.07894.x. Epub 2012 Mar 19. Ramsay Hunt syndrome Gunnar Wagner 1Harald KlingeMichael Max Sachseより抜粋

右硬口蓋に水泡がみとめられています。舌半分に同様の水疱が出る場合もあります。神経が強く障害されると味覚障害も発生します。

N Engl J Med. 2025 Jun 12;392(22):e53. doi: 10.1056/NEJMicm2500293.Ramsay Hunt Syndrome
Jiangtao GuoWenbin Li より抜粋

免疫低下による重症化

女優の古村比呂さんは、頭皮の帯状疱疹が治癒していないため、抗がん剤治療を延期されたそうです。抗がん剤で免疫がさらに低下すると、症状が悪化するリスクが高まると考えられたからです。免疫系に影響する糖尿病、腎不全、悪性腫瘍の患者は、他の疾患の患者よりも帯状疱疹イベントのリスクが1.8〜8.4倍高くなるという報告1)があります。免疫抑制状態にある患者さん、自己免疫疾患の患者さん、急性期に痛み症状が強く出た場合などはPHNへの高リスク因子であるという報告2)もあります。免疫低下がある方は、ワクチン接種などの予防が大切になってきます。

参考文献 
1)Infection. 2011 Dec;39(6):537-44. doi: 10.1007/s15010-011-0162-0. Epub 2011 Jul 29.

Risk of Herpes zoster in patients with underlying diseases: a retrospective hospital-based cohort study A Hata M KuniyoshiY Ohkusa

2)Int J Infect Dis. 2024 Oct:147:107181. doi: 10.1016/j.ijid.2024.107181. Epub 2024 Jul 17.Association of the incidence of postherpetic neuralgia with early treatment intervention of herpes zoster and patient baseline characteristics: A systematic review and meta-analysis of cohort studies Shaoli Ding Shiqi Wen Hongxia Kang Haijun Zhang Hong Guo Yulan Li 


2. 後遺症「PHN」を防ぐための72時間 早期介入が大切

帯状疱疹で最も悩ましいのは帯状疱疹後神経痛という後遺症が発生することです。皮膚症状が治った後も痛みが3ヶ月以上残る状態を帯状疱疹後神経痛(PHN)と言います。北斗晶さんが「髪の毛が触れただけでも痛い」と悩まされている症状は、アロディニア(異痛症)という症状です。

このPHNへの移行を防ぐためには、早期の治療開始が必要と考えられています。早期治療により、ウイルスの働きを抑え、炎症と痛みを緩和することは、神経障害を最小限にすることによって、PHN発症を防ぐために必要であると考えられています。

参考文献
日皮会誌:135(3),527-556,2025(令和7)帯状疱疹診療ガイドライン2025

診断と治療開始のタイミング

  • 72時間以内が勝負:ウイルスが増殖しやすいのは、発疹の出始めから72時間(3日)以内です。この期間内に抗ウイルス薬の服用を開始することで、発疹と痛みの重症化を防げる可能性が高まります。                    参考文献 日皮会誌:135(3),527-556,2025(令和7)帯状疱疹診療ガイドライン2025
  • 初期症状の見極め:かゆみよりも強い痛みが先行し、それが身体の片側だけに紅斑(赤い斑点)や水疱(水ぶくれ)が帯状に出ている場合は、すぐに医療機関を受診してください。発疹の出ない神経痛だけの時期もあるため、痛みだけでもすぐに相談することが大切です。

3. 痛みの専門家:ペインクリニックでの治療戦略

当院のようなペインクリニックは、帯状疱疹の急性期(発症直後)の激痛を和らげ、PHNへの移行を阻止することを目指した専門的な治療を提供しています。

当院では、抗ウイルス薬の投与も実施しています。

痛みの悪循環を断ち切る「神経ブロック注射」

急性期の帯状疱疹の痛みに対しては、抗ウイルス薬に加えて、ペインクリニックが得意とする神経ブロック注射と鎮痛薬を併用することが効果的です。

  • 神経ブロック注射:痛みを起こしている神経周囲に局所麻酔薬やステロイド薬を投与することで、疼痛の緩和と炎症を抑え血流を改善することで、痛みの悪循環を断ち切ります。
  • PHN予防:発症初期に、疼痛緩和を行うことで、PHNへの移行を防ぐことが期待できます。
  • PHN治療:PHNへ移行してしまった場合、神経障害性疼痛薬やオピオイド系鎮痛薬などの薬剤、鎮痛薬の点滴、ブロック注射を組み合わせた集学的なアプローチで、痛みの緩和を目指します。

当院では、慢性痛の患者様のQOL向上のため、消炎鎮痛リハビリテーション(温熱とマッサージ)も行っております。


4. 予防が最も重要:ワクチン接種と生活習慣

帯状疱疹は、80歳までに3人に1人が発症すると言われるほど身近な病気です。発症自体とPHNを抑制するために、ワクチン接種は非常に効果的です。

帯状疱疹ワクチンについて

当院ではシングリックスワクチン接種を実施しています

・シングリックス(不活化ワクチン):

  • 接種回数:2回接種(2か月間隔をあけて実施)
    • 費用目安:計4万4000円(1回2万2000円;当院での場合)
    • 効果の持続時間:10年以上                       

                                  

特に50歳以上の方には、高い予防効果が期待できる不活化ワクチンの接種が推奨されています。大阪市では、特定の年齢の方に対して助成が行われています。

発症のきっかけは疲れやストレスによる免疫力の低下です。規則正しい生活習慣を心がけ、免疫力を維持することが何よりの予防策となります。


痛みでお困りの際は、いとうペインクリニックへ

帯状疱疹による激痛や長引く後遺症でお悩みの方は、決して我慢せず、痛みの専門家にご相談ください。

「同じ部位の痛みでも、患者様1人1人で原因が異なります。治療に関するご希望もあると思います。ご要望に沿って相談させていただきながら治療方法を提案させていただきます」という理念に基づき、診断(レントゲン、超音波検査、血液検査など)から、神経ブロック注射、薬物療法などをもちいて集学的なアプローチでサポートいたします。

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