• 2025年9月22日

痛みの経路は男女一緒ではない?

最近、「Natureダイジェスト」を診療後に斜め読みしている時、以前、印象に強く残っていた痛みの研究論文についての内容が示されていましたので、今回はこれについての話となります。


痛みの経路は男女一緒ではないらしい

慢性疼痛に性差があり、女性の方が多いことは以前より言われていたことです。例として、線維筋痛症は女性が7倍多いことが知られています。これ以外にも、性差のある疾患は多くあります。

しかし、痛みのメカニズムが男女で違うらしいと考えられるようになったのはつい最近のことです。

2009年にカナダのマギル大学で、ごく軽い触刺激に対して強い痛みを感じる痛覚過敏の仕組みをマウスで調べていたところ、このタイプの痛覚過敏反応が雄雌で大きく異なっていたという報告が最初となります。

この発見以前は、雌のホルモン周期(生理)によって結果が複雑になることを懸念して、慣例として長年、疼痛研究に雄だけが使われていましたが、現在、この研究をきっかけに、一連の疼痛反応の性差に目が向けられつつあります。

その成果も出始め、ある種の疼痛経路には性差がかなりあり、免疫細胞やホルモンが、さまざまな反応に重大な役割を果たしていることが明確になってきました。


慢性の炎症反応を引き起こした場合のマウスの性差によるメカニズムの違いについて

「Natureダイジェスト」 Vol. 16 No. 6 DOI: 10.1038/ndigest.2019.190622より抜粋

脳や脊髄を体の他の部位と結ぶ末梢神経が傷つくと、痛みに対する感受性が高まることがあり、雄のマウスでは、この反応は脊髄にあるミクログリアという免疫細胞のトール様受容体4(TLR4)活性化によって決まり、雌ではT細胞が疼痛を制御していると述べられています。

経路の違いには、テストステロンが関与しているらしく、テストステロンの有無でメカニズムが入れ替わることも示されています。

※世界で初めて2003 年に脊髄の中のミクログリア(免疫細胞の1つ)の活性化が神経障害性疼痛に重要であることを英国科学誌Natureで発表したのは、日本の九大のグループです。


痛みに対してわからないことがまだまだ多すぎます。

性差による痛みのメカニズムの違いは、外からは同じに見えるかもしれない痛みが、体内で同じことが起きていると仮定する訳にはいかないことをこの論文結果は示したと言えます。

痛みは自覚症状であり、なかなか外部からその程度を類推するのは至難の業です。

ペインクリニックに来院された患者さん全員痛みが緩和されているわけではありません。しかし、1人1人痛みの性状は異なるものとして真摯に向き合う姿勢は、臨床家として大事だと考えています。


参考文献

※1)2)は同じグループによる報告

1) Nat Neurosci. 2015 Aug;18(8):1081-3. doi: 10.1038/nn.4053. Epub 2015 Jun 29. Different immune cells mediate mechanical pain hypersensitivity in male and female mice

2) J Neurosci. 2011 Oct 26;31(43):15450-4. doi: 10.1523/JNEUROSCI.3859-11.2011. Spinal cord Toll-like receptor 4 mediates inflammatory and neuropathic hypersensitivity in male but not female mice

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