- 2025年8月28日
神経障害性疼痛に対して最も効果のある薬は?
世界的に有効とされる薬は何?

こんにちは、いとうペインクリニックの院長の伊藤です。今回は、神経障害性疼痛薬の選択でよく引用されている文献をもとに、世界的に神経障害性疼痛に有効と推奨される薬について説明したいと思います。
2016年にランセットニューロールより報告されたメタ解析の結果が、評価基準としてよく利用されていますので、この文献の内容に沿って神経障害性疼痛薬の効果と副作用の関係についてみてみましょう。
効果をみるにあたって、NNT(Number Needed to Treat)とNNH(Number Needed to Harm)という値についての理解が必要です。
NNTとは、何人治療して1人に有効であったのかを示す値で小さい値ほど、治療効果が高いことを表しています。 一方NNHは、何人治療したら1人に副作用が発生するかを表しています。すなわち、値が低いほど、副作用の発生が大きくなることを表しています。
例)
NNT2:薬を投薬して2人に1人は効果があることを示しています。 NNT10ならば、10人治療して1人だけ効果があったことになります。 この場合NNT2の薬が治療効果が高いことを表しています。
例)
NNH2:薬を投薬して2人に1人に副作用が発生したことを示しています。
それでは、下の表を見てみましょう。

上の表は、参考文献Lancet Neurol. 2015 Feb;14(2):162-73. doi: 10.1016/S1474-4422(14)70251-0.より値を抜粋したものです。
試験の55%は、糖尿病性疼痛性多発神経障害または帯状疱疹後神経痛で実施されています。
略語:
- TCA・・・三環系抗うつ薬:主にトリプタノール🄬25~150㎎使用された。
- SNRI・・・セロトニン-ノルアドレナリン再取り込みインㇶビター:抗うつ薬 デュロキセチン(サインバルタ🄬20~120㎎)とベンラファキシン(イフェクサー🄬150~225㎎投与)
- Pregabalin・・・プレガバリン:リリカ🄬150 ~600㎎
- Gabapentin・・・ガバペンチン:抗てんかん薬 ガバペン🄬900~3600㎎/ガバペンチンエナカビル
- Tramadol・・・トラマドール:弱いオピオイド トラマドール🄬~400㎎
- Strong opioids・・・強いオピオイド:オキシコドン10~120㎎ モルヒネ90~240㎎
- Capsaicin8%・・・カプサイシン8%:トウガラシの成分8%(痛み受容体のTRPV1に作用し末梢神経の痛みを緩和します。)
- BTX-A・・・ボトックスA:単回50~200単位投与:末梢神経弛緩薬(一般的には、美容目的や眼瞼痙攣や斜頸など筋肉を弛緩させるのに使用されます。メタ解析に使用された文献は局所の疼痛発生部位などに対し使用されておりかなり専門的な使用です。)
参考文献:Lancet Neurol. 2015 Feb;14(2):162-73. doi: 10.1016/S1474-4422(14)70251-0.
この解析結果によると、NNTが最も小さいTCA(三環系抗うつ薬)が最も神経障害性疼痛治療に有効な結果となっています。Strong opioids(強いオピオイド:オキシコドン、モルヒネ)もNNTは低く有効性が考えられますが、使用量が日本での使用に比べてかなり高容量の使用されており一概に強オピオイドが有効とは言いきれません。
副作用の発生NNHについては、比較するものによってはそれほど変わらないのでは、と考えられるでしょう。しかし副作用は比較的軽度のものから重度のものまで含まれており、一概にNNHの比較のみで副作用は少ないから安全というものではありません。
文献においては、副作用を考慮し、プレガバリン、ガバペンチン、抗うつ薬のTCA(トリプタノール🄬)とSNRI(サインバルタ🄬およびイフェクサー🄬)は、神経障害性疼痛薬として第一選択薬として記載されています(院長自身も有効であると考えます)、トラマドール(弱オピオイド)は有効性がやや劣る(第二選択薬)と記載されています。
一方、強オピオイドは明らかに使用量が多く、副作用の点からも、第三選択薬と神経障害性疼痛薬としての使用の重要度は低いとされています。
この文献では、それ以外の薬についての説明がありますが、リドカイン5%パッチ(局所麻酔薬の貼付剤)は安全性と忍容性は優れており有効との記載がありますが、ボトックス(末梢性筋弛緩薬)同様、研究の質は低い(すなわち信頼性が低い)とされています。
ガバペンチンER/エナカルビルは、疼痛管理に使うことはめったにないと考えますが、NNH31.9(17.1-230)で安全性はかなり高く、効果はガバペン同様有効NNT8.3(6.2-13)であることが示されています。日本ではレグナイト🄬という商品名で当院ではむずむず足症候群の治療に利用しています。
抗てんかん薬のトピラメート、ゾニサミド、オクスカルバゼピン/カルバマゼピンにおいては、NNHはそれぞれ6.3(5.1-8.0)、2.0(1.3-4.6)、および5.5(4.3-7.9)で安全性は低く特に重篤な副作用としてスティーブンス・ジョンソン症候群や中毒性表皮壊死融解症などの重篤な皮膚症状を引き起こす可能性があり注意が必要です。
しかし、三叉神経痛の場合は、カルバマゼピンは非常に有効で、第一選択の薬となります。使用にあたっては定期的な血液中の濃度測定などによる管理の下、慎重な使用が求められます(当院で実施しています)。
これ以外にもNMDA拮抗薬(ケタラール;日本では麻薬指定)やメキシレチン(日本では、糖尿病性末梢性神経障害に適応があります)などの記載もありますが、有効性がはっきりしないとされています。
この他、併用療法として、SNRIとガバペンチンなどの併用についての記載もありますが、効果についての一定の評価は得られていません。

いとうペインクリニックでは、神経障害性疼痛薬のガイドラインを守りつつ、有効性と副作用に注意しながら、患者様1人1人に対し処方を心がけています。
神経障害性疼痛に対しては、ブロック注射治療が非常に有効な症例もあります。 また、漢方薬や鍼灸治療、抗精神病薬など、上述以外の薬物も多く使用して治療にあたっています。
痛みでお悩みの方は、ぜひ一度、いとうペインクリニックにご相談ください。あなたの痛みに心から寄り添い、快適な毎日を取り戻すためのお手伝いをさせていただきます。