• 2025年7月24日

腰痛持ちの方必見!ペインクリニック専門医が教える「仙腸関節痛」とは?症状と治療の選択肢

「長年、腰痛に悩まされている…」
「レントゲンやMRIでは『異常なし』と言われたのに、お尻のあたりがずっと痛い…」

もしあなたがそんな経験をお持ちなら、その痛みの本当の原因は、「仙腸関節(せんちょうかんせつ)」にあるのかもしれません。

仙腸関節の炎症や機能障害は、むかしから腰痛の約15〜30%を占めるとも言われていますが、その存在はまだ広く知られておらず、見逃されやすいのが現状です。

(PAIN Practice2023年の仙腸関節痛の総説でも下肢痛を伴わない腰痛の15〜30%と記載されています。)

このブログでは、痛みの専門家であるペインクリニックの医師が、腰痛患者さんを悩ませる「仙腸関節痛(仙腸関節障害)」の特徴的な症状、治療法について、お伝えいたします。


「仙腸関節」とは?あなたの“腰痛”は、実はここが原因かも

まず、「仙腸関節」とはどこのことかご存知でしょうか?

骨盤は、中央にある「仙骨(せんこつ)」と、その両側にある「腸骨(ちょうこつ)」という大きな骨で構成されています。仙腸関節とは、この仙骨と腸骨をつなぐ関節のことです。

腰に手を当てたとき、親指が触れるあたりが腸骨です。その少し内側、お尻の中央寄りに仙腸関節は位置しています。

この関節は、上半身の重みを支え、地面からの衝撃を吸収する「ビルの免震構造」のような非常に重要な役割を担っています。そのため、周囲を強力な靭帯で固められており、ほとんど関節が動かない安定した関節となっています。

しかし、何らかの原因でこの関節にズレや緩み、過度な負担(外傷など)が生じると、不安定さや炎症が起きて痛みが発生します。これが「仙腸関節痛(仙腸関節障害)」です。


これって仙腸関節痛?特徴的な症状セルフチェック

仙腸関節からの痛みは、一般に、仙腸関節の後部要素(臀部 後外側大腿部分)がほとんどですが、体前面の鼠径部などに痛みが出現することもあります。

下記の図の紫部分に痛みが出るとされています。

図1:仙腸関節痛での痛みが発生するとされる典型的な場所について(紫の部分)
(図1Pain Practice 2024 Apr;24(4):627-646. 2023 Dec 28. Sacroiliac joint painより抜粋)

これらの症状は、坐骨神経痛や腰椎椎間板ヘルニアの症状と間違われることも少なくありませんが、これらの部分に痛みがある場合は、仙腸関節痛の可能性も考える必要があります。


なぜ仙腸関節炎通は見逃されやすいのか?ペインクリニックの診断法

仙腸関節炎が「見逃されやすい」最大の理由は、レントゲンやMRIなどの画像検査では異常が見つかりにくいことにあります。関節のズレや炎症はごくわずかなため、画像に写らないのです。では、ペインクリニックではどのように診断するのでしょうか?

問診と身体診察

私たちはまず、患者さんの話を詳しくお伺いします。「どんな時に痛むか」「どうすると楽になるか」といった情報が、診断の重要な手がかりになります。

仙腸関節痛に特有のテストとしては、上後腸骨棘と言われる臀部骨盤のでっぱり部分をピンポイントで圧迫し、痛みが誘発するか確認する「ワンフィンガーテスト」があります。また、レントゲンを撮影し、仙腸関節部分が不鮮明になっていないか確認します。炎症が強い場合は、仙腸関節部分の炎症がMRIで確認できます。

仙腸関節ブロック注射

診断法の中に、「仙腸関節ブロック注射」による痛みの軽減の有無を確認する方法がありますが、診断に非常に有用です。これは、痛みの原因と考えられる仙腸関節に、直接局所麻酔薬を注射する方法です。注射後、痛みがかなりの程度で軽減する場合、その痛みは仙腸関節が原因である可能性が高くなります。

このブロック注射は、診断にも使用されますが、同時に治療も兼ねており、仙腸関節痛に対する有効な手段です。

仙腸関節痛以外の疾患としては、以下の疾患も考慮する必要があります。

脊椎関節症または軸性脊椎関節炎:脊椎の炎症性疾患です。通常、45歳未満で慢性腰痛として現れます。併存疾患としてブドウ膜炎、乾癬や掌蹠膿疱症、炎症性腸疾患などがあります。活動性炎症性疾患の患者は、赤血球沈降速度や C 反応性タンパク質 (CRP) などの急性期反応物の上昇の証拠があることがよくあります。

これらの疾患は、 内科的治療で改善する可能性があります.このような疾患が疑われる場合は、近隣の専門病院への紹介を行います。

子宮内膜症:腸、横隔膜、胸膜腔などの異常な場所に正常な子宮内膜粘膜が移植されることによって、骨盤痛、腹部痛、腰痛などの原因となることがあります。子宮内膜症の痛みは、月経困難症、性交痛、排尿障害などの他の症状と関連している可能性があります。このような疾患が疑われる場合は、近隣の専門病院と連携して疼痛治療を行います。

股関節痛:患者は通常、鼠径部に痛みを示しますが、膝より下まで広がる臀部や股関節外側に痛みを感じることもあります。単純X線撮影による股関節の変形有無の確認を行います。滑膜の病気であるリウマチが疑われる場合は、血液検査にてリウマチ検査を実施しています。炎症症状が強い場合などは、リウマチ専門医のいる病院へ紹介させていただき連携をはかります。変形性膝関節症などの変性疾患については、内服薬やブロック治療を行いますが、手術が必要な場合は、近隣の整形外科・脊髄外科専門医のいる病院へ紹介します。

筋膜性の痛み:トリガーポイントの存在、けいれんまたは筋電緊張の増加、さらには筋肉内の萎縮によって引き起こされる慢性的な痛みが原因と考えられます。内服薬や貼付剤、各種ブロック注射にて治療します。

梨状筋症候群:臀部、股関節、下肢の痛みに関連しています。坐骨神経が梨状筋を通過する部分において、坐骨神経が刺激され痛みが発生すると考えられています。内服薬や梨状筋付近にある坐骨神経周囲へのブロック注射などの治療を行い痛みの軽減をはかります。


ペインクリニックで行う仙腸関節痛の治療法

診断が確定したら、症状に合わせて治療を進めます。

内服薬や貼付剤による治療

痛みを緩和する為、内服薬や貼付剤を使用し症状の改善をはかります。場合によっては、骨盤ベルトの使用が、仙腸関節を安定させ、負担を軽減する効果が期待できる場合もあります。

仙腸関節ブロック注射  

当院では、外科用C-アームを使用し仙腸関節に的確に薬液を注入します。

痛みの原因となっている関節の炎症を直接抑えることで、強い痛みを和らげます。痛みが軽減することで、血行が改善し、関節の動きが正常化していくという好循環が生まれます。多くの場合、このブロック注射を数回繰り返すことで症状は大きく改善します。関節内および関節外のステロイド注射は、一部の人々で数カ月以上の痛みを和らげることが報告されています。

高周波アブレーション (RFA)

L5 背側枝と S1-3 (または 4) 側枝の高周波アブレーション (RFA) も、有効であることが示されていますが、当院では、実施しておりません。


悪化させない!今日からできるセルフケアと予防法

まずは専門家による診断が第一ですが、仙腸関節に負担をかけないための一般的な注意点をご紹介します。

  • 適正体重を維持する
    • 体重が増えると、仙腸関節への負担も増大します。
  • 骨盤周りのストレッチ
    • 長時間の同一姿勢を避け、お尻や太ももの裏の筋肉を、痛みのない範囲でゆっくりと伸ばしましょう。

「原因不明」と諦める前に、一度ご相談を

よくわからないでも確かにある辛い痛み。もしかして仙腸関節痛かもしれません。「歳のせい」「原因不明の腰痛」と諦めていたその痛みは、正しい診断と治療によって、改善する可能性が十分にあります。

このブログで紹介した症状に心当たりがあり、長引く腰やお尻の痛みに悩んでいるなら、ぜひ一度、痛みの専門家であるペインクリニックにご相談ください。私たちは、あなたの痛みの原因を見つけ出し、最適な治療法を提案するお手伝いをします。

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