• 2025年5月17日

クービビック®とデエビゴ®・ベルソムラ®、マイスリー®はどう違う?専門医が教える睡眠薬の選び方と使い分け

睡眠薬の選択肢が増えています~自分に合ったお薬を見つけるために

不眠症の治療で使われる睡眠薬には、様々な種類があります。近年、新しいタイプの睡眠薬が登場し、治療の選択肢が広がっています。その中でも2024年12月に新発売されたクービビック®(一般名:ダリドレキサント)は、「オレキシン受容体拮抗薬」というカテゴリに属し、これまでの睡眠薬とは異なるアプローチで睡眠を改善するお薬です。

「自分にはどの睡眠薬が合っているのだろう?」「今飲んでいる薬とどう違うの?」といった疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。この記事では、クービビック®を、同じオレキシン受容体拮抗薬であるデエビゴ®(一般名:レンボレキサント)、ベルソムラ®(一般名:スボレキサント)、そして代表的な従来型睡眠薬であるマイスリー®(一般名:ゾルピデム)と比較しながら、それぞれの特徴、効果、副作用、使い分けのポイントなどを専門医の見解も参考にしながら詳しく解説します。


今回比較する主な睡眠薬のご紹介

クービビック®(ダリドレキサント)2024年発売。オレキシン受容体拮抗薬。自然な眠りを促し、依存性が低いとされる。
デエビゴ®(レンボレキサント)2020年発売。オレキシン受容体拮抗薬。クービビック®と同じタイプ。
ベルソムラ®(スボレキサント)2014年発売。世界初のオレキシン受容体拮抗薬。
マイスリー®(ゾルピデム)長年広く使われている非ベンゾジアゼピン系睡眠薬。超短時間型。

【徹底比較①】オレキシン受容体拮抗薬3剤:クービビック®・デエビゴ®・ベルソムラ®

これら3剤は、脳内で覚醒を維持する物質「オレキシン」の働きを抑えるという共通の作用機序(デュアルオレキシン受容体拮抗薬:DORA)を持ちますが、それぞれに特徴があります。

特徴項目クービビック® (ダリドレキサント)デエビゴ® (レンボレキサント)ベルソムラ® (スボレキサント)
発売年(国内)2024年2020年2014年
製造会社イドルシアエーザイMSD
半減期(効果持続目安)約6.6時間(短い)約47.4時間(非常に長い)約10時間(中間)
最高血中濃度到達時間約1.0時間約1.5時間約1.5時間
入眠効果(専門医印象)デエビゴ®と同程度クービビック®と同程度やや劣る
持ち越し効果(翌朝の眠気)最も少ないとされる残りやすい傾向ありクービビック®よりは残りやすい
悪夢の副作用報告他2剤より少ないとのデータ・見解あり報告あり報告あり
剤形(mg)25, 50 (おにぎり型、分割しにくい)2.5, 5, 10 (分割可、用量調節しやすい)10, 15 (分割不可)
高齢者用量25mg5mg~10mg (最大)10mg
CYP3A阻害薬併用時25mg2.5mg10mg
禁忌(主なもの)CYP3A強阻害薬併用、重度肝機能障害重度肝機能障害CYP3A強阻害薬併用
オレキシン受容体親和性OX1R > OX2R (OX1Rへの作用が強い)OX1R << OX2R (OX2Rへの作用が非常に強い)OX1R ≦ OX2R

専門医による使い分けのポイント(オレキシン受容体拮抗薬3剤)

  • 翌朝の眠気や持ち越しを特に避けたい方: 半減期が最も短いクービビック®が第一選択肢となると考えます。
  • 中途覚醒や早朝覚醒が特に強い方、効果の持続を重視する方: 半減期が非常に長いデエビゴ®が適している場合があります。ただし、翌朝への影響に注意が必要です。
  • 入眠困難にも対応しつつ、ある程度の持続も欲しい方: クービビック®デエビゴ®が検討されます。ベルソムラ®は入眠効果がややマイルドとの評価があります。
  • 細やかな用量調節が必要な方、副作用を見ながら慎重に増量したい方: 3段階の用量があり分割も可能なデエビゴ®が使いやすいです。
  • 悪夢が心配な方: クービビック®は他の2剤と比較して悪夢の報告が少ないというデータや専門家の意見があります。

【徹底比較②】クービビック® と 代表的な従来型睡眠薬マイスリー®の比較

次に、新しいタイプのクービビック®と、長年広く使われているマイスリー®(非ベンゾジアゼピン系)を比較します。これらは作用の仕方が大きく異なります。

特徴項目クービビック® (ダリドレキサント)マイスリー® (ゾルピデム)
作用機序オレキシン受容体拮抗(覚醒を抑える)GABA受容体作動(脳の活動を鎮静)
効果の質自然な眠りを促す、強引さがない即効性があり、切れが良い(効果の実感が強い)
半減期(効果持続目安)約6.6時間約2時間(超短時間型)
主な効果対象入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒、熟眠障害主に入眠障害
依存性・離脱症状リスク極めて低いとされる長期使用で起こりうる。
反跳性不眠リスク低いとされるありうる
健忘・もうろう状態報告は少ない注意が必要(特に服用後の行動)
副作用(その他)悪夢、幻覚(レム睡眠関連)の可能性睡眠随伴症状(夢遊病など)、ふらつきの可能性
ジェネリック医薬品なし(2025年5月現在)あり(薬価が安い)
薬価(先発品目安)25mg:約57円, 50mg:約91円5mg:約18円, 10mg:約27円
禁忌(主なもの)CYP3A強阻害薬併用、重度肝機能障害急性閉塞隅角緑内障、重症筋無力症

専門医による使い分けのポイント(クービビック® vs マイスリー®)

  • 依存性や長期使用を懸念する方、自然な眠りを求める方: クービビック®(または他のオレキシン受容体拮抗薬)が適しています。
  • 中途覚醒や早朝覚醒にもしっかり対応したい方: 作用時間の長いクービビック®がマイスリー®より適していると考えられます。(Di Marco et al.の研究では、クービビック®は夜間覚醒を減らし再入眠を助ける効果が示唆)
  • 寝つきの悪さが主で、即効性を求める方、屯用(必要な時だけ使う)を希望する方: マイスリー®が選択肢になることがあります。ただし、依存性や健忘のリスク、作用時間の短さ(中途覚醒には不向きな場合がある)を理解しておく必要があります。
  • 補足

従来のベンゾジアゼピン系の睡眠導入剤では、筋肉の力が脱けて転びやすいことや、依存の問題がありました。より副作用の少ない、非ベンゾジアゼンピン系睡眠導入剤であるマイスリー®、ルネスタ®が開発されたのですが、副作用がまったくなくなったということではありません。
筋肉の力が脱けない、依存にならないと勧めていたこともありましたが、一部の人には半効きのような状態になり、ふらつきや夢遊病のような状態(自分は記憶にないけれども朝になって気づくと電話をかけていた、料理を作り食べていたなどの奇異行動)が認められることがあります。その場合は、ただちに他の薬に変更します。

これらの薬剤は、アメリカ食品医薬品局FDAの使用における警告注意がだされています。しかし、マイスリー®、ルネスタ®などの非ベンゾジアゼンピン系睡眠導入剤は、寝つきが良く、不眠恐怖、寝室恐怖の人や軽い不眠の人に使いやすい面があります。

適正な使い方が、オレキシン受容体拮抗薬より求められる薬剤であると思いますが、従来のベンゾジアゼピン系の睡眠薬と比較してもよい薬であると考えます。


薬剤選択における重要な注意点

どの睡眠薬を選ぶにしても、以下の点は必ず医師と相談し、指示を守ることが重要です。

  • 薬物相互作用: クービビック®は特定の薬剤(CYP3Aを強く阻害する一部の抗生剤)との併用が禁忌です。デエビゴ®やベルソムラ®も同様に注意する薬物があります。マイスリー®も他の薬剤との相互作用の可能性があります。服用中の薬は必ず全て医師に伝えてください。
  • 併用について:
    • クービビック®、デエビゴ®、ベルソムラ®といったオレキシン受容体拮抗薬同士の併用はできません。
    • クービビック®とマイスリー®のような作用機序の異なる睡眠薬の併用も、過度の鎮静作用が出る可能性があるため原則として行われません。
  • 患者さんの状態による注意: 肝機能障害や腎機能障害のある方、高齢者の方、妊娠中・授乳中の方などは、薬剤の選択や用量調整に特別な配慮が必要です。

最適な睡眠薬は一人ひとり違います ~必ず医師に相談しましょう

ここまでクービビック®を中心に、デエビゴ®、ベルソムラ®、マイスリー®といった主要な睡眠薬との違いや選び方のポイントを解説してきました。それぞれに特徴があり、「どの薬が一番良い」と一概には言えません。

大切なのは、ご自身の不眠のタイプ(寝つきが悪いのか、途中で目が覚めるのか、ぐっすり眠れないのかなど)、生活スタイル、健康状態、そして睡眠薬に対するお考え(依存性は避けたい、即効性が欲しいなど)を医師にしっかり伝え、相談しながら最適な治療法を見つけていくことです。

いとうペインクリニックでは、患者さん一人ひとりに合わせた丁寧な診療を心がけております。睡眠に関するお悩みや、お薬に関するご不安がございましたら、どうぞお気軽にご相談ください

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