• 2026年1月28日

腰部脊柱管狭窄症⓹ 手術後の腰背部痛(FBSS:Failed back surgery syndrome)について

こんにちは、いとうペインクリニック院長の伊藤です。

令和4年国民生活基礎調査(厚労省)によると、日本人の自覚症状のトップは男女とも腰痛であることが示されていますが、疼痛で来られるペインクリニック受診患者さんの中でも腰痛で来られる割合は最も高いです。そして、高齢の患者さんになるほど、腰痛・臀部痛・下肢痛の原因が、腰部脊柱管狭窄症による割合も高くなっています。

今回は、腰部脊柱管狭窄症の診療ガイドライン2021年改訂版をもとに腰部脊柱管狭窄症の手術後も継続する腰背部痛についての話をしていきたいと思います。

手術後の腰背部痛 FBSS(Failed back surgery syndrome)とは?

ペインクリニックに脊柱管狭窄症の術後に痛みが悪化して来院される患者さんもちらほらおられますが、FBSS(Failed back surgery syndrome:要約すると腰部外科手術後も継続する腰痛とでもいいましょうか、International Association for the Study of Pain では、下肢への放散痛の有無にかかわらず、原因不明で、治療のために手術を受けた後も持続するまたは再発する腰部の痛みと定義されています)として、ある一定人数が発生することが認識されています。

腰部手術後の腰部痛の有病率は?

注意:腰部脊柱管狭窄症以外の手術も入っています。

米国で調べられたFBSSは、2019年1月から2020年12月までの期間、米国でFBSSの有病率を特定するために、後ろ向き横断面研究が実施されました。手術を受けた28,426人の患者のうち、FBSSは8%でした。1)

参考文献
1)Am J Lifestyle Med. 2023 Aug 21;18(4):527-535. doi : 10.1177/15598276231196499. e Collection 2024 Jul-Aug. Prevalence of Failed Back Surgery Syndrome Across Hospital Corporation of America Healthcare in the United States, Their Correlation With Mood Disorders and Other Lifestyle-Related Comorbidities Keysha Gonzalez-Ramos , Zainab Hanif , Maham Shahid, Nilmarie Guzman , Natalie P Hurlock

日本においての腰部手術後のFBSS発生率は?

注意:腰部脊柱管狭窄症以外の手術も入っています。

日本で全国的なインターネット調査が実施された結果、腰の手術後のさまざまな残存症状とFBSSが評価されました。しびれ、鈍い痛み、感覚異常は患者の生活の質(QOL)、満足度、精神的健康に大きな影響を与えたということですが、この調査では、FBSS(残存症状および患者満足度)の有病率は1842人の回答者で20.6%だったとのことです。2)

参考文献
2)J Pain Res. 2017 Apr 6:10:811-823. doi: 10.2147/JPR.S129295. eCollection 2017.Prevalence, characteristics, and burden of failed back surgery syndrome: the influence of various residual symptoms on patient satisfaction and quality of life as assessed by a nationwide Internet survey in Japan Shinsuke Inoue, Mitsuhiro Kamiya , Makoto Nishihara , Young-Chang P Arai, Tatsunori Ikemoto , Takahiro Ushida

腰部脊柱管狭窄症で術後に残存しやすい症状は何か?

術前、安静時に下肢のしびれを有するような場合は、下肢のしびれや、歩行の障害が残りやすいとされています。また、こむら返りについては、手術により改善するかの一定の見解はないとの記載となっています。 日本のグループが、腰部脊柱管狭窄症に対する減圧術の術後30.3%に下肢痛しびれが残存し、14.6%に歩行障害が残存したと報告しています。3) 上述のインターネットの調査2)では、残存症状の内訳は、手術後も継続する腰痛94.0%、鈍い痛み71.1%、しびれ69.8%、冷たさ43.3%、感覚異常35.3%だったとのことです。

参考文献
3)Eur Spine J. 2010 Mar 23;19(11):1849–1854. doi: 10.1007/s00586-010-1374-1 Predictors of residual symptoms in lower extremities after decompression surgery on lumbar spinal stenosis Nobuhiro Hara et al.

FBSSの治療は

整形外科やペインクリニックなどで保存的に治療が行われることとなりますが、再手術がなされる場合もあります。難治性疼痛に対して脊髄刺激療法という治療が行われることもあります。

FBSSに対する脊髄刺激療法(SCS:Spinal Cord Stimulation)とは?

図 一般社団法人 日本定位・機能神経外科学会ホームページより抜粋

FBSS後も持続する痛みで、保存的に経過観察されている患者さまもペインクリニックには多く来られますが、近年、脊髄刺激療法という脊髄の近傍に刺激装置を挿入し電気信号で痛みの緩和をはかるという方法が用いられることもあります。体に対する侵襲は大きくありませんが、刺激方法の調整や感染の防止の観点からも病院での入院治療になります。希望される方は、実施している施設への紹介を行いますが、件数の多い手慣れた施設での治療をお勧めします。日本メドトロニック・アボットジャパン・ボストンジャパン共同会社の3つのメーカーによって刺激方法などに違いがあります。

図 一般社団法人 日本定位・機能神経外科学会ホームページより抜粋

参考文献
4)Review Neuromodulation. 2022 Jul;25(5):657-670. doi: 10.1016/j.neurom.2021.11.013. Epub 2022 Feb 10.Spinal Cord Stimulation in Failed Back Surgery Syndrome: An Integrative Review of Quantitative and Qualitative Studies Erkan Kurt et al.

海外の16の研究結果をまとめたメタ解析の結果においては、FBSS患者に対しSCSが実施された疼痛や日常生活のQOLに対し、全体的な改善が示唆されたとのことでしたが、患者の経験から、日常生活およびSCSシステムを装着した生活における制限(充電など)などの問題もあり、SCSを実施するにあたっては、術前に複数回のカウンセリングなどを実施し慎重に検討されることが求められるとの記載がなされています。4)

まとめ:ペインクリニックでの治療

ペインクリニックでは、薬物療法や専門的な神経ブロック注射を駆使して「痛みの悪循環」を効果的に断ち切り症状の改善をはかります。 長引く痛みやしびれは、身体的だけでなく精神的にも大きな負担となります。我慢せず、ぜひ一度、痛みの専門家であるペインクリニックにご相談ください。適切な治療で痛みから解放され、快適な毎日を取り戻すためのお手伝いをいたします。

参考資料 腰部脊柱管狭窄症ガイドライン2021年改訂版

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