- 2025年12月16日
腰部椎間板ヘルニアの自然消退について

ペインクリニックに腰痛・下肢痛でみえる患者さんはたくさんいますが、比較的若い世代に多く発生する腰部椎間板ヘルニア(LDH)についての話をします。
腰椎間板ヘルニア(LDH)は、外科的治療を伴わずに自然に吸収されることがあり、ヘルニアが小さくなり自然とおさまっていくことも多いです。再吸収の病因および生理学的適応は依然として不明ですが、今回は、腰部椎間板ヘルニアの自然吸収について話をしたいと思います。
メカニズム
腰椎椎間板ヘルニア(LDH)は、椎間板の外周を覆っている線維性組織の破裂により、内部にある柔らかい髄核の脱出(ヘルニア)が起こり、物理的に脊髄や神経根が圧迫され、患者は痛みやしびれ、神経機能障害(重症の場合は脱力)などの臨床症状を示します。

Characteristics and mechanisms of resorption in lumbar disc herniation Pengfei Yu , Feng Mao , Jingyun Chen, Xiaoying Ma, Yuxiang Dai, Guanhong Liu, Feng Dai, Jingtao Liuより引用一部改変
外科的治療と保存的治療に分かれますが、まずは、保存的治療が、LDH患者にとっての第一選択となります。数が月程度で、LDHの症状の多くは保存的治療で緩和できます。
外科的介入なしに腰椎椎間盤外ヘルニアが自然に縮小または消失する現象を再吸収と呼びますが、LDHの自然な再吸収は広く認知された臨床的観察となっています。多くの文献にてヘルニアの突出が強いほど、ヘルニアの消失もおこりやすくなることが示されています。
以下にヘルニアの吸収についての例を示します。

Characteristics and mechanisms of resorption in lumbar disc herniation Pengfei Yu , Feng Mao , Jingyun Chen, Xiaoying Ma, Yuxiang Dai, Guanhong Liu, Feng Dai, Jingtao Liuより引用一部改変
上部の2画像は、椎間板ヘルニアにより右腰下肢に症状が出た40代女性のMRI画像です。初期のMRIでは、L5/S1椎間板にて大きく椎間板が突出(椎間板ヘルニア)しており、硬膜嚢(脊髄神経の入っている袋;硬膜嚢が非対称に変形しています)を押し出し、右の神経根(画像では左側)が圧迫されています。
下部の2画像は、1年間の保存的治療後の同一人物のMRI画像です。腰下肢の症状は全くなくなっています。画像上もL5/S1椎間板ヘルニアは有意に減少し、突出部も吸収されています。
注)MRI画像は左が右側、右が左側を表しています。仰向けに寝た状態で足側から覗き込んだような配置になっています。
参考文献:
Arthritis Res Ther. 2022 Aug 23;24(1):205. doi: 10.1186/s13075-022-02894-8.
Characteristics and mechanisms of resorption in lumbar disc herniation Pengfei Yu , Feng Mao , Jingyun Chen, Xiaoying Ma, Yuxiang Dai, Guanhong Liu, Feng Dai, Jingtao Liu
Clin Rehabil. 2015 Feb;29(2):184-95. doi: 10.1177/0269215514540919. Epub 2014 Jul 9.
The probability of spontaneous regression of lumbar herniated disc: a systematic review
Chun-Chieh Chiu, Tai-Yuan Chuang, Kwang-Hwa Chang, Chien-Hua Wu, Po-Wei Lin, Wen-Yen Hsu
メカニズムについて

Characteristics and mechanisms of resorption in lumbar disc herniation Pengfei Yu , Feng Mao , Jingyun Chen, Xiaoying Ma, Yuxiang Dai, Guanhong Liu, Feng Dai, Jingtao Liuより引用一部改変
現在、椎間板における炎症(炎症性メディエーター、マトリックスメタロプロテイナーゼ、および特定のサイトカイン)がマクロファージ(ヘルニアを貪食し吸収してくれる細胞です)に働きかけ、ヘルニア部分の細胞を貪食することが、椎間板ヘルニア部位の自然な消退に不可欠であることが示唆されています。
治療方法
まずは内科的に経過観察することが第一です。
ペインクリニックで行う専門的な治療法とは?
ペインクリニックでは、まず問診や診察、必要に応じてレントゲンやMRIといった画像検査を行い、痛みの原因を診断します。その上で、手術をしない「保存療法」を基本に、患者様一人ひとりの症状に合わせた治療を組み合わせて行います。
薬物療法:痛みの種類に合わせた薬の選択
主な薬剤
- 非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs): 炎症を抑え、痛みを和らげます。一般的な痛み止めとしてまず用いられます。
- 神経障害性疼痛治療薬: 圧迫されて過敏になった神経の興奮を鎮める薬です。「ビリビリ」「ジンジン」といった、神経そのものが原因の痛みに特に有効です。
- 血管拡張薬: 神経への血流を改善し、痛みやしびれを和らげます。
- その他:痛みをコントロールする目的で抗うつ薬・抗てんかん薬・筋緊張弛緩薬などを使うこともあります。睡眠薬や漢方薬も処方します。痛みが強い場合は、麻薬に準じるような強い薬剤も使用します。点滴(アセリオ🄬:術後の疼痛コントロールによく使用されます)による疼痛治療も行っています。
- 注:当院では難治性の慢性疼痛に対し麻薬を処方していますが、急性腰痛に麻薬は使用していません。
神経ブロック注射:痛みの悪循環を断ち切る即効性の高い治療
ペインクリニックの最も代表的な治療法が「神経ブロック注射」です。痛みの原因となっている神経の近くに、局所麻酔薬や抗炎症薬を直接注入することで、つらい痛みを劇的に和らげることが期待できます。
神経ブロック注射の目的と効果
- 痛みの伝達を遮断(除痛効果): 痛みの信号が脳に伝わるのをブロックし、即効性のある鎮痛効果が得られます。
- 血行の改善: 緊張した交感神経の働きを抑え、血管を広げて血流を良くします。これにより、溜まっていた痛みの原因物質が洗い流されます。
- 炎症を抑える: ステロイド薬を併用することで、神経周りの炎症を抑えます。
- 痛みの悪循環を断ち切る: 「痛み→筋肉の緊張・血行不良→さらに痛みが増す」という悪循環を断ち切り、体が本来持つ回復力を引き出します。
いとうペインクリニックでは、これらの注射をレントゲン透視や超音波(エコー)といった画像診断装置を用いて行うため、安全かつ正確に目的の場所へ薬剤を投与することができます。
外科的療法(手術)
坐骨神経痛の治療で、最初から手術が選択されることは稀ですが、力が入らなくなったり(不可逆的な神経根損傷)や排便や排尿のコントロールができなくなる症状(膀胱直腸障害)の場合は、直ちに外科手術の適応となります。
また、保存的治療を3〜6か月経っても症状が有意に改善しない、症状が悪化する場合は外科的治療を考慮し、手術可能病院へ紹介します。
手術が検討される場合
- 数ヶ月間、保存療法を続けても全く効果が見られない場合。
- 痛みが激しく、日常生活が著しく困難な場合。
- 足の麻痺が進行していく場合。
- 排尿・排便障害(馬尾症候群)が現れた場合。
ペインクリニックでは、これらの症状を見極め、必要な場合には速やかに信頼できる脊椎外科医のいる病院へご紹介します。
つらい腰痛・下肢痛は我慢せず、専門医にご相談ください

- ペインクリニックでは、薬物療法や専門的な神経ブロック注射を駆使して「痛みの悪循環」を効果的に断ち切り症状の改善をはかります。
長引く痛みやしびれは、身体的だけでなく精神的にも大きな負担となります。我慢せず、ぜひ一度、痛みの専門家であるペインクリニックにご相談ください。適切な治療で痛みから解放され、快適な毎日を取り戻すためのお手伝いをいたします。