- 2025年11月20日
腱板断裂について

いとうペインクリニックの院長の伊藤です。今回は、中高年の肩の痛みの原因として、頻度の高い疾患の1 つである「腱板断裂」についての話になります。腱板断裂は、肩の痛みや可動域の制限,筋力の低下をきたす疾患で、加齢とともに断裂の大きさが拡大する進行性の疾患と考えられています。肩関節周囲炎のような自然治癒はありません。
下の図をみてください。正常な真ん中の棘上筋(腱板の一部)が、右図においては、断裂して上腕骨頭の一部がみられる状態になっています。

第24回 腱板断裂 阿部秀一 抜粋一部変更
棘上筋(腱板の一部)は肩甲骨の肩峰という骨のでっぱり部分と上腕骨の骨頭部分に挟まれた肩峰下関節という解剖学的にも狭い部分に存在します。この部分が障害されると、外転という腕を挙上する動作において痛みを感じるようになります(インピンジメントテスト陽性)。完全に断裂すると腕の挙上が困難となってしまいます。

肩関節は、 4つの筋肉によって包まれていますが、各筋肉の腱性部分(骨との接続部分)は、共同腱として一塊で,板状にみえることから「腱板」とよばれています。腱板断裂は腱板を構成する4つの腱のうち、 肩峰下に最も近い棘上筋腱に最も多く起こります。
症状としては、「肩が痛い」「手が上がらない」(可動域制限)や「力が入らない」(筋力低下)などの症状があります。
腱板断裂の形態

説明できる整形外科疾患 第24回 腱板断裂 阿部秀一 より抜粋
断裂の形態は,腱板の全層が断裂する完全断裂と、1部分が断裂している部分(不全)断裂に分けられます。 部分断裂は、断裂する箇所により滑液包側断裂、腱内断裂、関節包側断裂の3つに分類されます。
年代別の腱板断裂の有病率について
皆川らは秋田県小阿仁村における住民検診で,一般住民を対象とした疫学調査を行いました.その結果,医療機関を受診していない人を含めても,50 歳代から腱板断裂がみられはじめ,高齢になるとともに断裂の頻度が高くなること、痛みのまったくない無症候性の腱板断裂が多く存在することを報告しています。

50歳代から腱板断裂がみられはじめ、高齢になるとともに断裂の頻度が高くなります。
腱板断裂の10年ごとの有病率は、20代から40代が0%、50代が10.7%、60代が15.2%、70代が26.5%、80代が36.6%でした(上図)。147人の被験者のうち 38 人 (25.9%) が両側腱板断裂を患っていました。
痛みや自覚症状のない人も多くいます:664 人の被験者のうち 147 人(22.1%) が腱板断裂を患っていたが、このうち、症候性腱板断裂が34.7%(147人中51人)、無症候性断裂が65.3%(147人中96人)であったと報告しています。50代では、無症候性腱板断裂が全断裂の50%を占めていましたが、60歳以上の人では、無症候性腱板断裂の有病率は症候性断裂の有病率よりも有意に高く症候性断裂の2倍の有病率であったとのことです。この調査では、症候性および無症候性腱板断裂の有病率は、年齢とともに有意に増加していました。裂傷の大きさについては、50代の被験者に小さな腱板断裂が最も多く(66.3%)、大きな裂傷はなかったようです。しかし、大きな裂傷の有病率は年齢とともに増加するのが認められたとのことです(60代43.8%、70代45.1%、80代43.9%)。
海外での報告でも、無症候性の腱板断裂の発生率は年齢とともに比例して増加し、60代の患者の20%、80歳以上の患者の80%が何らかの腱板損傷(断裂)を経験していることが示されています。
50歳以下においては、腱板断裂は全体の数パーセントとかなり少ないですが若年者でも発生します。若年者の場合、断裂患者の半数以上は、外傷によるものが最も多く、外傷歴のないものは肩峰下の骨棘が大きい傾向があったとの報告があります。
参考文献)J Orthop. 2013 Feb 26;10(1):8–12. doi: 10.1016/j.jor.2013.01.008Prevalence of symptomatic and asymptomatic rotator cuff tears in the general population: From mass-screening in one village Hiroshi Minagawa, Nobuyuki Yamamoto, Hidekazu Abe, Masashi Fukuda, Nobutoshi Seki, Kazuma Kikuchi , Hiroaki Kijima, Eiji Itoi,∗
J Bone Joint Surg Br. 1995 Mar;77(2):296-8.Rotator-cuff changes in asymptomatic adults. The effect of age, hand dominance and gender C Milgrom, M Schaffler, S Gilbert, M van Holsbeeck
形成外科と災害外科66:(3)585-587, 2017.若年者における肩腱板断裂損傷 泉 政寛 ら
クリニックでの診断について
患者さんにはまずチェックリストに記載してもらい、現状の痛みがどの程度継続しているのか、痛みの程度は、外傷は、既往歴はなどの問診を行います。
腱板断裂の診断
診察時の理学所見と画像診断により,腱板断裂の診断がなされます。
理学所見

整形外科的徒手検査法 第26回 三橋龍馬 帖佐悦男より抜粋引用
肩が挙上できるかどうか、挙上で肩峰の下で軋轢音があるかどうか、肩の筋肉の萎縮などを診ます。軋轢音や筋萎縮があれば、腱板断裂を疑います。インピンジメントテストで痛みが誘発するかも確認します。
画像所見
X線写真
単純X線:上腕骨大結節周辺部の骨硬化像(白く写る)や肩峰下面の骨棘形成、AHIの狭小化,骨頭 の上方移動などを確認します(下記写真)。
注)AHI:肩峰骨頭間距離 前後像で正 常 肩 のAHIは8~16mm程度です。中間位で撮影し7mm未満は広範囲腱板断裂の可能性を考えています。肩峰下の骨棘(白く見えたり辺縁が不整)、上腕骨結節部の骨硬化(白く見える)についてのチェックもします。

図
左図 J-STAGEトップ/肩関節/13 巻 (1989) 2 号/書誌肩峰骨頭間距離の臨床的意義 宮沢 知修, 松井 健郎, 小川 清久 より引用
中 左図 整形外科看護2008vol.13 no.1 (49)より引用
超音波検査:
超音波エコーを用いて上腕骨頭大結節部位の棘上筋の状態を観察できます。下図では腱板は正常です。SSPが大結節と離れている場合は完全断裂をあらわしています。

SSP:棘上筋
図は整形外科看護 2008 vol.13 no.12 1247-1253 説明できる整形外科疾患 第24回 腱板断裂 阿部秀一 より抜粋
必要な場合はMRIを実施します。
MRIは低侵襲では、T2強調画像でよりはっきりと断裂部分の確認が可能です。

整形外科看護2008vol.13 no.1 (47)47-58 特集 正常像と病変像をくらべてナットク! 整形外科の画像の見かた 実践 代表疾患の画像の見かた 肩腱板断裂 望月 由より抜粋
参考文献)整スポ会誌Vol32 NO1 14 腱板断裂症例における超音波検査所見とMRI所見との比較〜近位断端位置の評価〜Comparison of Ultrasonography and Magnetic Resonance Imaging in the Evaluation Rupture End Position of Rotator Cuff Tear Tadashi Tanaka, Akira Kakegawa, Mitsuru Aizawa, Makoto Watanuki, Taka Yamada, Hidetoshi Hayashi
治療について
当院での治療について
痛みがある場合は、鎮痛薬の内服や鎮痛薬の点滴、鎮痛薬のブロック注射などを行います。痛みが激しい症例に対してはステロイドの注射を行います。
手術療法
腱板断裂の手術は、侵襲の少ない鏡視下の手術方法が多くなってきています。手術を希望される場合は、専門施設へ紹介させていただきます。
注)活動性が高い年代での外傷性の断裂は,手術療法が考慮されますが、腱板が断裂した状態でも、日常生活を問題なく過ごされている方はたくさんおられます。
肩の痛みでお悩みなら、一度、ペインクリニックにご相談ください

肩の痛みは、つらい時期が続いたり、生活の質(QOL)を大きく低下させる可能性のある病気です。
「年のせいだと諦めていた」という方も、痛みの専門家であるペインクリニックにご相談ください。当院は整形外科の診療も行っており、丁寧な診断と、神経ブロック注射や消炎鎮痛リハビリテーションを組み合わせたオーダーメイドの治療で、あなたの痛みの軽減と快適な毎日を取り戻すためのお手伝いをさせていただきます。