- 2025年9月19日
【腰椎骨折】ディーン元気選手も苦しんだ腰の痛み。その原因と治療法を専門医が解説

先日、世界陸上の男子やり投げに出場したディーン元気選手が、大会後に腰椎を骨折したまま競技に臨んでいたことを明かし、大きな衝撃が走りました。昨冬から折れていたものの、日本選手権後に判明したとのこと。トップアスリートを襲った長引く腰痛の正体は「骨折」だったのです。
▶Yahoo!【世界陸上】ディーン元気、腰椎骨折のまま強行出場「思った準備できなかった」試合後自ら明かす
このニュースは、決して他人事ではありません。スポーツに打ち込む学生から、日常生活を送るご高齢の方まで、腰椎骨折は誰にでも起こりえるある意味身近な怪我なのです。当院にも、腰の痛みに悩む多くの患者様が来院されます。
今回は、ディーン選手の事例も踏まえ、「腰椎骨折」とはどのような怪我なのか、その原因、症状、そして治療法についてお伝えします。
腰椎骨折とは? – あなたの腰痛、どのタイプ?

腰椎とは、背骨の腰の部分を構成する5つの骨(椎体)のことです。この腰椎が損傷した状態を「腰椎骨折」と呼びます。原因や骨折の状態によって、以下に説明します。
1. 圧迫骨折:最も多く、特に高齢の痩せた女性に注意
椎体(ついたい)と呼ばれる背骨の前方部分が、上下からの圧力によって潰れてしまう骨折です。高齢化に伴い骨がもろくなる「骨粗しょう症」が主な原因で、尻もちをついたり、重いものを持ち上げたり、時にはくしゃみをしただけでも発症することがあります。若い方でも上下方向に強い力がかかる場合は発生することがあります。
主な症状:
- 寝返りを打つ、起き上がるなど、体を動かした時の激しい痛み
- 背中や腰が丸くなる(円背:脊柱後弯)
- 身長が縮む
2. 分離症・分離すべり症:ディーン選手もこの可能性?アスリートや成長期の若者に多い疲労骨折
ディーン選手のように、若いスポーツ選手を悩ませることが多いのがこのタイプです。分離症とは腰椎の椎弓という後方部分が分離(骨折)してしまった状態のことをさします。腰を反らしたり、ひねったりする動きを繰り返すことで、腰椎の一部に亀裂が入る疲労骨折が原因と考えられています。やり投げはもちろん、野球やサッカー、バレエなどの選手によく見られます。ディーン選手が「痛みはずっとあったが、理由が分かってホッとした」と語っているように、初期段階では原因不明の腰痛として見過ごされることも少なくありません。分離が進行し、椎体が前方にずれてしまうと「分離すべり症」といい、場合によっては、下肢の痛みやしびれを引き起こすことがあります。発生する場合は腰椎の5番目(一番下の腰椎)の分離症がほとんどです。
3. 破裂骨折(破裂骨折):強い衝撃で起こる重篤な骨折
交通事故や高所からの転落など、非常に強い外力が上下に加わることで椎体が破裂するように骨折するものです。圧迫骨折との違いは、椎体の後壁すなわち脊髄のある側までの骨折があるかどうかですが、破裂骨折は、骨の破片が脊髄神経を圧迫し、下半身の麻痺などの重篤な後遺症を残す危険性があります。
主な症状
- 耐えがたいほどの激しい腰痛
- 足の痛みやしびれ、力が入らない
- 排尿・排便障害:自分の意志にもかかわらず尿が出なかったり、便を垂れ流したりしてしまう
早期発見がカギ!腰椎骨折の検査と診断
「もしかしたら…」と思ったら、自己判断せずに医療機関を受診することが重要です。
- 問診・診察: 痛みのきっかけや症状の程度などを詳しくお伺いします。
- レントゲン検査: 骨折の有無や椎体の変形を確認する基本的な検査です。ただし、初期の疲労骨折などはレントゲンでは写らないこともあります。
- CT・MRI検査: レントゲンでは分かりにくい骨折の詳細はCT検査を実施します。神経の圧迫状態などを詳しく調べる為には、MRIが必要となります。これらの検査は、長引く腰痛の原因を特定するために非常に有効です。
- 骨密度検査: 骨粗しょう症が疑われる場合に行い、骨の密度を測定します。
どうやって治すの?腰椎骨折の治療法
治療法は、骨折の種類や程度、患者様の年齢や活動レベルによって異なります。
保存的治療

骨折のずれが少ない場合や、症状が軽い場合の基本的な治療法です。
- 安静: 場合によっては、コルセットやギプスで腰部を固定し、骨が癒合するのを待ちます。スポーツ活動は原因となる動きを中止することが必要です。通常、数週間程度の安静が必要となります。
- 薬物療法: 痛みを和らげるための鎮痛薬や、骨粗しょう症の進行を抑える薬などを服用します。当院のようなペインクリニックでは、神経ブロック注射などでつらい痛みを効果的にコントロールすることが可能です。
- リハビリテーション: 痛みが落ち着いたら、筋力低下を防ぐためにも、リハビリを開始します。しかし、痛みが落ち着いていなくても、骨折以外のところは積極的に動かすことが大切です。
手術療法
保存的治療で改善が見られない場合や、強い神経症状がある場合、骨の変形が大きい場合などに行われます。手術必要な場合は、専門の医療機関へすぐに紹介します。
- バルーン椎体形成術(BKP): 圧迫骨折で潰れた椎体に、風船(バルーン)を使って空間を作り、医療用のセメントを注入して骨を補強する、比較的負担の少ない手術です。骨が固まってからは適応がありません。
- 固定術: 金属製のボルトなどを用いて、不安定になった背骨を固定する手術です。破裂骨折や、分離すべり症が進行した場合などで行われます。
その腰痛、放置しないでください

「ただの腰痛」と軽く考えず、痛みが続く場合は必ず専門医に相談してください。早期に適切な診断と治療を受けることが、症状の悪化を防ぎ、健やかな日常生活やスポーツ活動への復帰につながります。
いとうペインクリニックでは、腰の痛みの原因を多角的に診断し、薬物療法、神経ブロック療法、リハビリテーションなどを組み合わせた集学的治療で、患者様一人ひとりの痛みの軽減とQOL(生活の質)の向上を目指しています。そのつらい痛み、ぜひ一度当クリニックにご相談ください。