- 2025年8月15日
その「ただの夏バテ」、放っておくと危険です。芸能人・伊東四朗さんの事例に学ぶ熱中症のサインと予防策

夏の暑さが本格的になり、連日ニュースで報じられる熱中症。特に注意が必要なのがご高齢の方々です。総務省消防庁のデータによると、熱中症で救急搬送される方の半数以上が65歳以上の高齢者です。
近年、日本の夏は異常な暑さとなり、各地で40度を超える記録的な猛暑日も珍しくなくなりました。気温がこれほど高くなると、熱中症は誰にとっても他人事ではありません。
先日、88歳になられた俳優の伊東四朗さんが、熱中症で倒れていたというニュースがありました。ご本人は「意識ははっきりしていたのに、体が全く動かないんだよ」と語っておられたそうです。この伊東さんの事例は、高齢者の熱中症に潜む危険を私たちに教えてくれます。意識があっても体が動かせず、助けを呼ぶこともできない。そんな事態を防ぐため、熱中症の初期サインと、今日からできる予防策についてお伝えします。
熱中症は「ただの夏バテ」ではありません

「だるい」「食欲がない」といった初期症状を「夏バテ」と軽く考えてしまう方も多いでしょう。しかし、それは熱中症の始まりかもしれません。熱中症の病態は、熱そのものによる暑熱障害と水分摂取不足や発汗過多による脱水に大別されます。高体温の遷延は、神経細胞障害を引き起こし、脱水は水分不足による循環血液量減少による影響で、暑熱障害と脱水が進行すると、細胞死や細胞の損傷が発症して、多臓器不全に至る命に関わる危険な病態です。
症状をチェックし、熱中症のサインを見逃さないようにしましょう

下記に示す通り、日本救急医学会「熱中症診療ガイドライン 2024」では、特に危険な状態を「Ⅳ度」=重症と定義し、迅速な対応を呼びかけています。
重症度 | 症状の目安 | 対応方法 |
---|---|---|
Ⅰ度 | めまい・立ちくらみ・生あくび・大量の発汗・筋肉痛・こむら返り・意識障害なし | 通常は現場で対応可能⇒Passive Cooling、不十分ならActive Cooling、経口的に水分と電解質の補給 |
Ⅱ度 | 頭痛・嘔吐・倦怠感・虚脱感・集中力や判断力の低下(JSC≦1) | 医療機関での診察が必要⇒Passive Cooling、不十分ならActive Cooling、十分な水分と電解質の補給(経口摂取が困難な時は点滴にて)分・塩分を補給して安静にする。 |
Ⅲ度 | 下記の3つのうちいずれかを含む ・中枢神経症状(JCS≧2・小脳症状・けいれん発作)・肝・腎機能障害(入院経過観察、入院加療が必要な程度の肝または腎障害)・血液凝固異常(急性期DIC診断基準)にてDICと診断) | 入院治療の上、Active Coolingを含めた集学的治療を考慮する。 |
Ⅳ度 | 深部体温40.0℃以上でGCS≦8 | Active Coolingを含めた早急な集学的治療 |
日本救急医学会「熱中症診療ガイドライン 2024」より抜粋
※JCS(値が大きいほど重症)やGCS(値が大きいほど軽症)は医学的な意識レベルを表すものです。
JCS≦1・・・少し意識がはっきりしないかなというレベルです。
JCS≧2・・・見当識障害がある場合(現在の場所、日付、時間等がわからない)はJCS2となります。
自分の名前、生年月日が言えない場合は、3となります。JCSは、日本で使われる意識障害の評価方法です。まったく反応のない状態は、JCS300になります。
GCS≦8・・・意識レベルを評価する国際的な指標で、合計点(3~15点)で意識障害の重症度を判定します。GCS8以下の意味ですが、GCS8点以下は、緊急度が高い重症と判断されます。ぐったりした、みるからに危険な状態です。
- Passive Cooling・・・冷所での安静:一般の方でも可能な冷却方法です。
- Active Cooling・・・「体温管理」「体内冷却」「体外冷却」「血管内冷却」:入院治療でないと困難な冷却方法です。
- DICとは・・・・・・血液が異常に固まりやすい状態となり、多くの血栓(小さな血の塊)が形成され、結果として血液を固めるのに必要な物質が使い果たされて、さまざまな部位で出血が起こりやすくなる病態です。命に関わるケースも少なくありません。
Ⅰ~Ⅲ度は軽症と判断されますが、医療関係者でない場合、Ⅲ度の見極めは困難です。
熱中症は後手に回ると危険です。意識がはっきりしない場合、判断に迷った場合は、救急搬送でよいと考えます。
熱中症予防のポイント

総務省消防庁の全数調査によると、2023年の全国の熱中症搬送者において年齢区分別では、高齢者(満65歳以上)が最も多く、発生場所別の救急搬送人員をみると、住居が最も多い結果となっています。このことからも家庭内の温度管理と水分補給が重要となってきます。
- こまめな水分・塩分補給
喉が渇く前に、こまめに水分を摂りましょう。汗は塩分も消費します。塩分補給も一緒におこなうことが大切です。
- 暑さ指数の活用
テレビやインターネットで公開されている「暑さ指数(WBGT)」を確認しましょう。屋外だけでなく、室内でも指数が高くなることがあるため注意が必要です。
- エアコンや服装の工夫
「このくらいなら大丈夫」と我慢せず、エアコンや扇風機を上手に使いましょう。また、通気性の良い服を選び、直射日光を避ける工夫も有効です。
「暑いからだるい」と感じたら、それは体が発している危険なサインかもしれません。無理をせず、まずは涼しい場所で休み、水分を摂るようにしてください。

熱中症予防に不安を感じている方がいらっしゃいましたら、ぜひ一度いとうペインクリニックにご相談ください。当院では、来院時に脱水の兆候のある方には積極的に水分補給や点滴を行っています。