• 2025年7月11日

芸人も経験する腰椎圧迫骨折の痛み — ロッチ中岡さんの事例から学ぶ、安全への配慮と予防・治療の重要性

お笑いコンビ・ロッチの中岡創一さんが、人気テレビ番組のロケ中に腰椎圧迫骨折の疑いと診断されたというニュースは、多くの方に衝撃を与えました。

今回は、中岡さんの事例も交えながら、身近に起こりうる腰椎圧迫骨折(脊椎圧迫骨折)について、その原因や症状、診断、予防、そしてペインクリニックでの治療法についてご紹介します。同時に、安全管理の重要性や、日頃からの予防策についても改めて考えさせられます。


ロッチ中岡さんの事例から見る「尻もち」の危険性と繰り返される事故

中岡さんは、テレビ番組の企画でモーターボートを使用した動画の再現に挑戦した際に、尻もちを強くついてしまい、その結果、第2腰椎圧迫骨折の疑いと診断されたとのことです。全治数ヶ月の見込みで、帰国後に精密検査を受ける予定と報じられています。

このように、一見すると些細な「尻もち」でも、着地の仕方や衝撃の強さによっては、私たちの体の要である「腰椎」に大きな負担がかかり、骨折に至ることがあります。当然、骨が弱っている高齢者に多く見られるケースですが、重い物を持ったり、せきやくしゃみをしたりといったちょっとしたきっかけで起こることもあります。また、若い方でも交通事故や高所からの落下など、強い外力が加わることで発生します。

今回のケースで気になるのは、中岡さんが同じ番組の企画中に過去にも負傷している点です。2022年にも右足関節外踝骨折で全治2ヶ月の怪我を負っています。また、同テレビ系列の番組制作現場では、女優の頭部外傷事故も報じられており、安全管理に対する懸念の声が上がっています。中岡さんご本人は「何の後悔もございません」とプロ意識の高さを示しているようですが、出演者の安全が最大限に確保された上で、番組が制作されることを強く望むばかりです。


脊椎椎体圧迫骨折(胸椎・腰椎圧迫骨折)とは?その原因と症状

脊椎椎体圧迫骨折とは、背骨が何らかの圧力でつぶれ変形してしまった状況を指します。脊椎は頸椎、胸椎、腰椎、仙椎と複数のパーツからなりますが、これらの骨の部分が外部から圧迫されて潰れるのが圧迫骨折です。高齢者では、胸椎と腰椎の境目(胸腰移行部)に骨折が起こるケースが大半です。

原因

  • 骨粗鬆症: 加齢などにより骨の量(骨量)が減って弱くなり骨折しやすくなっているため、わずかな力でも生じます。
  • 外傷: 落下転倒や交通事故など、強い外力によって椎体に圧力がかかり骨折を起こします。
  • 病的椎体骨折: 転移性骨腫瘍などが原因で骨折が生じることもあります。

症状の特徴

痛みの特徴は、寝起きや立ち上がり動作時に悪化することです。腰や背中に痛みが生じ、放置していると腰や背中が曲がってしまうこともあります。

  • 骨粗鬆症によるもの: 骨が弱くなっている(脆弱性が存在)ときに生じるものでは、胸椎と腰椎の境目(胸腰移行部)に生じることが多く、尻もちなどの明らかな外力が加わったものでは、通常は骨折のある部位に痛みを伴いますが、痛みが軽度もしくはない場合もあります。いくつもの場所に多発性に椎体骨折が生じると、背中が丸くなり(円背)、身長が低くなります。このことによって、呼吸機能の低下や逆流性食道炎(胃酸が口まであがってきやすくなったり、胸やけなどの症状)などが、発生してしまいます。
  • 強い外力によるもの: 他の骨軟部損傷を伴うことも多く、脊髄損傷を生じる場合もあります。部位にもよりますが、胸腰移行部に生じた場合、重症では下肢麻痺を生じるなど、さまざまな症状が出ることがあります。
  • 腫瘍など転移によるもの: 骨折部の体動時の痛みのほかに、安静時にも痛みが継続している場合は鑑別診断の1つとして考慮しなければなりません。成人の場合は、原発性は珍しく、乳がんや前立腺がんなどの腫瘍による転移性がほとんどです。

数週間かけて骨折部がくっ付いてくると痛みは和らいできますが、高度の腰曲がりが残ってしまった場合、腰や背中の鈍い痛みや疲れが生じたり、逆流性食道炎のような内臓の病気の原因になることがあります。偽関節という骨がくっ付かずに治ってしまう場合もあります。この場合は、痛みが遷延したり、腰下肢の神経障害が出現する場合もあります。


診断・検査

腰椎圧迫骨折の診断は、圧倒的に高齢者に多く見られるため、背中の動きの確認や背骨をゆさぶって(叩打痛)痛みがないかを確認します。

  • レントゲン検査: 比較的よく診断できます。当院では立位での検査を行います
  • 骨密度測定検査: 骨の量(骨量)を測定し、骨粗鬆症の有無を確認するために有用です。当院ではMD法にて素早く診断します。
  • MRIやCT検査: 腫瘍や神経症状が強い場合、あるいはレントゲン検査では骨折部位の新旧発症がはっきりしない場合に行います。

「ただの腰痛」と自己判断して放置すると、治療が遅れて症状が悪化する可能性があります。気になる症状があれば、早めに専門の医師に診てもらいましょう。


脊椎椎体圧迫骨折の予防と治療法

予防

高齢者の場合、転倒やベッドからの落下が多いため注意が必要です。日頃から骨密度を測定し、骨粗鬆症になっていないか確認しましょう。骨量が低い場合は、以下の予防策が有効です。

  • 食事療法: カルシウム、ビタミンD、ビタミンK、リン、マグネシウムなどをバランスよく摂取しましょう。
  • 運動療法: 背中や足の筋肉を鍛え、転倒しないようにする運動を行いましょう。踵落とし運動などが有効であると言われています。
  • 薬物療法: 内服薬や注射を用いた骨粗鬆症の治療を行います。

治療

腰椎圧迫骨折の治療は、原因や骨折の程度によって異なります。

  1. 骨粗鬆症による軽度の圧迫骨折の場合

コルセットなどで固定(必ずしも必要ありません。)し、安静を保ちます。安静にすることで、3〜4週ほどでほとんどが治癒に向かいます。安静中も骨折部位以外のリハビリ運動は大切です。痛みが強い場合は、神経ブロック注射や鎮痛剤を使用します。圧迫骨折の急性期に骨粗鬆症治療薬も有効です。

  1. 圧迫骨折の程度が重度の場合

以下のような場合に手術が必要になることがあります。

  1. 圧迫骨折が高度であったり、骨折部の不安定性が強かったりする場合。
  2. 脊柱管(脊髄部)が擦れたり骨片で圧迫を受けていたりする場合。
  3. いつまでも痛みが残る場合。
  4. BKP治療(バルーン椎体形成術):骨折部にバルーンを入れて膨らませ、その部分に骨セメントを流し込みます。早期に椎体を形成できるメリットがあります。全身麻酔で実施します。実施可能な病院をご紹介します。
  5. 椎体固定術: 神経症状が強い場合や脊髄を圧迫している場合に、金属のスクリューなどを用いて椎体の固定を行うことがあります。

ペインクリニックが提供できること

当院のようなペインクリニックでは、腰椎圧迫骨折による痛みを和らげ、患者さんの生活の質を向上させるための様々な治療を提供しています。特に痛みが強い急性期や、保存療法では痛みが十分に改善しない場合に、神経ブロック療法や鎮痛薬を活用して痛みの軽減を図ります。また、痛みが軽減した後のフォローについても、患者さん一人ひとりに合わせたプログラムを提供しています。

アクシデントによって突然の痛みに見舞われることもあれば、加齢に伴う骨密度の低下によって、知らず知らずのうちに圧迫骨折を起こしているケース(無症候性)もあります。

もし、腰や背中に強い痛みを感じたり、尻もちをついた後に違和感が続くようであれば、お忙しい方も、我慢せずに医療機関を受診することが大切です。特に、ペインクリニックでは、痛みの専門家が患者様一人ひとりの症状に合わせた最適な治療法をご提案し、痛みの軽減と生活の質の向上をサポートいたします。

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